絵師名簿No. 002946

ぎんの字(いつだってカオス、どこまでもカオス)

言泉枯渇中

No. 002946 Last Update:2020/06/30 Registration date first time:2007/08/29 CT

Web
お名前
ぎんの字(いつだってカオス、どこまでもカオス)
年齢
おばちゃん
性別
微妙
地域
地球外生命体
使用道具
液晶ペンタブ
描くの好き
おにいちゃん(うまく描けるとはいっていない)、ギター、トラ、頭にキノコが生えたネコ、風景
描くの苦手
幻想生物(ドラゴンとか)、ギター(好きだけど苦手)
絵のこだわり
爆発・・・はしませんが、精一杯「遊ぶ」
希望感想
不要:イラストを見てもらえれば十分満足です
重視するマナー等
ルールは守るためにあるものです。破るためではありませんよ。
憧れ好きな絵師等
岡本太郎/日比野克彦/五十嵐大介/草間彌生/ユトリロ/コロー/速水御舟/ルネッサンス期の名も無い画家たち
アトネさん好きか〜い?
も・ち・ろ・ん!^^b
最近のヒットは?
パズドラ
ヘヴィ・ローテ中
Super Collider/MEGADEATH
好きなアナログ画材
油絵の具とペインティングナイフ。シャープペンシルとマルマンルーズリーフ無地。
☆SAK企画wiki=ttp://themonetapress.wiki.fc2.com/
 担当キャラはウドーくん(・ω・)ノ
 
2020/6/18
イラコン2020、大遅刻で参加しました(;´ω`)ミミニャ〜さん、毎度お言葉に甘えてしまってすみません。まだのみなさん、がんばって!><b「神隠し。」更新しました。p.5からどうぞー。
 
*ページ内訳
[1]−−−絵師名簿Top。ここ。
[2]−−−「神隠し。」私信。
[3]〜  「神隠し。」
 
*「素」のぎんの字への扉は↓からどうぞ〜。ウソはついていないw
https://oekakiart.net/100q/html/3595.html
 
*ゆるゆるキャラ同盟(非公式)に参加表明^^←ゆるゆるに骨抜きにされる傾向あり。
 
*筋肉でもなくおにーさんでもなく、それですか!の「おやぢぎゃぐ」同盟。いいぢゃないか。好きなんだ。
 
*絵師名簿のバナー文字は「誤字の達人」同盟迷主やまぐちくんさまに描いていただきました^^ありがたや〜ありがたや〜
 
*ヘンリー=フォード氏のとても良い言葉を知り感銘を受けたのでご紹介
「努力が効果をあらわすまでには時間がかかる。
             多くの人はそれまでに飽き、迷い、挫折する」

神隠し。−−−私信
 
2020/6/18
>そとさん
ちびハクに可愛いありがとうございます!イラコン絵では笹船に乗せました。透君は白米が好きそうだと思い、できるだけ美味しそうにしてみたのですが、そとさんが無性に食べたくなったってことは、いい仕事をしたってことですね←座敷牢はちょっとアナクロかなーと思いつつ、外せない設定だったので。お察しかもですが、白鯰と濡羽の居住部屋になります。どうしてそんなことになっているのかといえば…話せば長い。どこかで追々お話できればいいなー。「神隠し。」の更新頻度からして、いつになることやら^^;風景は母方の実家近辺を思い出しつつ描写しています。壊れかけたバス停、田んぼの広がり。子どもの頃に何度か遊びにいって、楽しんでいた風景です。それでは、お返事遅くなってすみませんでした。また、ぼつぼつ更新します。
 
2019/5/31
>はぎさん…白(パイ)さまとお師匠さま、後半でお借りしてます。身内で「ハク」と呼ばれる白鯰と白(パイ)さまに親近感。
 いろいろ妄想が膨らんでいます^^*
 
2019/1/2
そとさんに描いていただいた白鯰のイラスト、はぎさんに添えていただいた「神隠し。」のお話から、妄想が膨らんでしまいました。
>そとさん・・・相馬透くんをお借りします。
>はぎさん・・・纐纈庵の設定をお借りします。
 

神隠し。−−−<1>
 
春の休暇を過ごした帰省先から戻り、ボランティアとして雑務を手伝っている資料館に顔を出した透を待っていたのは、受付カウンター横に山積みとなった書籍だった。
休暇中は人手が不足し、返却済みの書籍を整理して書架へ戻す作業は後回しにされる。
建物の外観はそう大きくないのだが、地下に広がる空間に収められた蔵書数は、国立国会図書館のそれに匹敵するとも言われ、また、あらゆる災難にも耐えられるようにと設計された堅牢さから、各所から貴重本が持ち込まれ、保管されている。
通常、お目にかかることが困難な古書も、ボランティア特権で自由に触れることができた。
ボランティアに参加しているのはそれが目的というのもある。
腕まくりをして片付けを終える頃には、昼を過ぎていた。
弁当の包みを肩掛けカバンから出し、表の自動販売機で温かい緑茶を買ってきて、受付カウンターで一休みする。
おにぎりを頬張りながら、貸し出し端末のデータを何気なくチェックすると、ほぼ同じ所属籍コードがずらりと並んでいた。
1日に数十冊が貸し出されては、翌日にすべて返却されている。
どうやら、透が不在の間に書籍を山積みにしたのはこのコードの持ち主らしい。
(それにしても)
午前中かかって、片付けた書籍はどれもかなりの厚みがあった。
借りた書籍をちゃんと最初から最後まで読んでいるとしたら、恐ろしい読書スピードだ。
気になって、書籍のタイトルを数冊、確認した。
内容は近隣の郷土史を著したものがほとんどだったが、執筆された時期がごく最近から古くは平安末期までと幅広い。
この土地にそんな古くから歴史があったことは驚きだが、しかし、執着するほどに特別な何かがあるとも思えない。
そう不思議に思うくらい、ここは平凡でありふれた町だ。
書架に戻し忘れた1冊が残っていることに気付き、何気なく開いて目次をなぞる。
この地に古くから伝わる民話や伝承を収集し、編纂されているようだ。
「さかさかがみの池」や「鳥居の岬」など、この辺りでは知らない者はいない名所史跡についての掲載がある。
「さかさかがみの池」は漢字では「逆鏡の池」と書き、休日になると家族連れで賑わう大きな公園の中にある。
岸辺にはレジャー用のボートが数艘係留された小屋もある大きな池だ。
梅雨明けの頃には蓮の花が咲き、早朝からカメラを携えた人々が詰めかける隠れた名所となっている。
「鳥居の岬」は、その名の通り、鳥居が複数、連なって建つ岬だ。
この岬は透もかねてから不思議に思っていた。
鳥居を抜けた先は、御神体を祀る社ではなく、海へと続く切り立った崖だ。
岬の先端に向かうにつれ、ゆるやかに上っていく所為か、高天原に繋がっているという伝承もあるらしい。
などなど、書かれている内容の大方は「そんなバカな」と笑い飛ばす都市伝説のようなものだ。
だが、透にはそうすることができない経験がある。
(そういえば、季節もこの頃だったな)
10歳の自身に降りかかった不思議な数日間の出来事が透の記憶に蘇ってきた。
 
断続的に息を吐き続ける口も喉もカラカラで、肺は破裂しそうだった。
チラと背後を見て、すぐに前を向き直し、千切れんばかりに手足を動かす。
春休みもあと少しで終わる頃。
その日も透は日課の散策を楽しんでいた。
春が訪れたばかりの山は、冬眠から目覚めた動物たちはまだ少なかったが、それでも、透に気付いた小動物たちが、木々の合間から顔を覗かせた。
目が合えば、軽く挨拶をするのだが、向こうは、それに驚き、そそくさと木陰に消える。
いつもと何も変わらない散策のはずだった。
だが、いつの間にか見慣れた景色は消え、群れ立つ木々の密度は増し、太陽はまだ南を回ったばかりのだったのに、辺りは薄い闇が降りてきていた。
何かおかしいと気付いて、後ろを振り返ると、来た道は忽然と姿を消している。
狗狸の類に化かされているのだろうか。
そんな時は、少し休憩するといいと聞いていたが、どうにも嫌な予感がした。
見慣れた道を探して先を急ぐうちに、ゆっくりと霧が出てきた。
霧自体は珍しくもない。
村でも時々、霧に包まれることがあった。
ただ、透を目指してきたその霧は、絡みつくようで、薄気味が悪い。
この場から離れなければ、と、少しずつ後ずさる足が小枝を踏んだ音を合図に、霧に背を向けて走り出す。
だが、走っても走っても、霧は透の後を追ってきた。
息が切れ、足がもつれ、とうとう、透は地面から少し盛り上がっていた木の根に躓き、突っ伏すように地面に倒れた。
強かに地面に打ち付けた膝の痛みにかまっている場合ではない。
嫌な気配が辺りを覆っていた。
恐る恐る顔を上げ、背後を窺う。
ぽうと霧の中に光がふたつ、透を眺めていた。
透が生唾を呑み込むと同時に、ふたつの光は獲物を見つけた捕食者のようににぃっと歪む。
蛇に睨まれた蛙のように透は動けなくなってしまった。
緊張の所為か、眩暈を覚える。
霧は数多の手を透に向かって伸ばしてきた。
「う」
逃げろ、と本能が囁いたが、指一本動かすことができない。
霧が透の身体にその手を巻き付けてくる。
もうだめだ、と、ぎゅっと目を閉じたとき、霧を裂いて、大きな白い塊が透と異形の間に立ちふさがった。
低く重いうなり声を発して異形を威嚇するそれは、見たこともない大きさの白い犬だった。
「去れ」
凛と響く声が異形を怯ませた。
霧の中から現れ、白い犬の脇にすっと立った背中を、眩暈でぐらぐらする意識が、捉えた。
その姿はちょうど真後ろで、透からは顔が見えない。
かろうじて、身の丈は透と同じくらいだと判断できた。
淡い色の少しクセがある栗毛、白地の着物に藤色の羽織。
透を諦め切れないのか、低い唸り声が響いた。
耳障りな音に周辺で息を潜めて窺っていた生き物たちが慌ただしく逃げ去る音が聞こえる。
「去れ。何度も言わせるな」
空気が凍りついた。
見えない力に押されたように、霧が引いていく。
獲物にありつけなかった悔しさに苛立つ唸り声を発しながら、霧が晴れるように異形は消えた。
張り詰めていた空気の緊張が緩んだと同時に、透の意識もふと遠のいて、真っ暗な闇に包まれた。
 
ぼそぼそと話す声がする。
「破れ穴に迷い込んだということは、その類、ということか」
「穴の中にいたということは、そういうことだろうな」
「ならば、通常の手段で返すことは不可能・・・か」
ふっと溜めていた息を吐く音が聞こえた。
「次に破れ穴が口を開くのはいつだ?」
「七日後、とハクは言っておったな」
ぱちんと何かが爆ぜる音がした。
薄目を開けて様子を伺うと、まず、囲炉裏が視野に入ってきた。
白い灰にくべられた薪が真っ赤に染まり、熱を発している。
「気がついたか」
頭寄りの囲炉裏端から声を掛けられ、驚いて、透は瞼を強く閉じてしまった。
「驚かせてしまったか。そう恐がることはない。気分はどうだ?どこか、痛むところはないか?」
透は恐る恐る目を開けた。
声をかけてきたのは初老に差し掛かったと思われる風体の人物だった。
囲炉裏端に足を組んで座っている。
身体を起こそうとして眩暈を感じ、透は小さく呻いた。
「まだ無理はするな」
若くはないが、ごつごつとした掌が透を支えてくれた。
「ここは?」
起き上がることを諦めて、透は床に並べられた座布団の上に再び身を横たえて訊いた。
「さて、答えたものか」
無精ひげの生えた顎を撫でながら、そう、呟いた時。
「ハク、部屋へ戻れ」
透が目覚めてから、ひとことも発せず囲炉裏を挟んで向かいに座っていた男が俄かに口を開いた。
気配を感じて、透は肩越しに背後を振り返る。
廊下と室内を隔てている障子の合わせ目が一寸、開いていた。
だが、その隙間の向こうに見えるのは廊下の壁で、そこから中を窺っていた気配は軽い足音とともに去っていた。
「他に誰かいるの?」
開いたままの隙間から視線を戻しながら、そう訊ねた透の質問には答えず、囲炉裏を挟んで向かいに座っている男は再び口を開いた。
「家に返してやりたいが、すぐというわけにはいかない」
「?」
「通路が再び開くのは七日後になる。それまではここに逗留してもらう」
向かって左に座っている、愛想の良い初老の男とは裏腹に、正面の若い男は抑揚なく淡々と透に宣告した。
「え?あの、それって」
狼狽える透にかまうことなく、若い男は立ち上がった。
紺色の着物に藍色の羽織姿はかなりの長身だ。
黒い髪は青味を帯び、透を見下ろす瞳は夕焼けを思わせる橙がかったトパーズ色。
まるで金目のカラスのようだと透は思った。
「親父、あとは頼む」
「寝泊りはここでさせるか?それとも、下に頼むか?」
親父と呼ばれた初老の男の問い掛けに、若い男は廊下に出かけたところで立ち止まって、少し考えた後、「いや、親父がついてくれ」と答え、出て行った。
初老の男は肩を竦めて透に笑顔をみせた。
若い男とはやり取りから察するに親子なのだろうが、ずい分と性質が違うようだ。
「すまんな。そういうことだ。しばらく不自由な思いをさせるが、辛抱してくれ」
透は首を左右に小さく振った。
「いえ、お世話になります」
「何、かまわんさ。おっと、そういえば名乗っていなかった。俺は鉄扇という。それから、さっきまでそこに座っていた無愛想な男は息子の濡羽だ」
「鉄扇・・・さん、俺は相馬透、透でいいです」
「”鉄さん”でいいぞ。みんなそう呼ぶ」
「じゃあ、鉄さん。あの・・・」
「うん?」
「俺はどうしてここに?」
鉄扇はぼさぼさ髪の頭を右手でがりがりと掻いた。
「それは、こっちが聞きたいくらいだが。憶えていないのか?」
鉄扇は簡単に経緯を説明してくれた。
ただ、その説明の中には、何かが抜け落ちていたが、それが何かも透には思い出せない。
そんな透を余所に、鉄扇が手招きをした。
囲炉裏の間、一方に隣接する部屋の襖を開けて待っている。
「寝泊りはこの部屋でしてもらう。布団が要るな。あと、浴衣か。すまんが、手伝ってくれ」
布団やら、寝間着代わりの浴衣など、当座の生活に必要な品々を収集しがてら、鉄扇は建物内を案内してくれた。
囲炉裏の間は四方を襖に囲まれているが、鉄扇の部屋を反時計回りにそれぞれ正面玄関、庭、中庭に面している。
正面玄関は広く、上り框から少し手前に引っ込んだところに、表面に立派な五葉松が描かれている一畳ほどの衝立が置かれている。
廊下からガラス越しに見える和風の庭は広く、よく手入れされていた。
中庭はそれとは対照的に白い石が敷き詰められているだけで、殺風景だ。
庭を見ながら奥へ進むと、廊下は二手に分かれた。
一方は庭に沿って真直ぐ奥へ続き、一方は庭とは反対方向に直角に折れ、中庭に沿うように伸びている。
真直ぐ奥へ進んだ先は蔵で、収蔵物は主に書籍だと鉄扇は教えてくれた。
「入るのはかまわんが、さて、気に入るような物があるかどうか」
書籍は古書の類で、透ぐらいの年ごろの子供向けではないと言いたかったらしい。
鉄扇は中庭に沿った廊下に進んだ。
中庭とは反対側に並ぶ部屋の襖のうちのひとつを開け、中から寝具一組と浴衣を出してくる。
「浴衣は大人用しかないが我慢してくれ」
透は頷いて受け取った。
布団と浴衣を運んで、さらに廊下を奥に進むと、突き当りで再び分岐した。
中庭に沿って進むと、囲炉裏の間へ戻る。
途中には台所、風呂、トイレなどの入り口が並んでいた。
分岐点で透は足を止め、もう一方に伸びる廊下の先を見つめた。
窓らしきものがない所為か、奥はぽっかりと暗闇になっている。
鉄扇は何も言わなかった。
「透」
鉄扇が呼んだ。
透は暗闇に背を向け、鉄扇の後を追った。
 

神隠し。−−−<2>
 
透が目を覚ました頃には、太陽は空に高く昇っていた。
得体の知れないものに追い回された緊張が、透に思っていた以上の疲れをもたらしていたのだろう。
仰向けの瞳に映る見慣れない天井に、その理由を寝ぼけた頭が思い出すのに少し時間がかかった。
起き上がって布団の上に足を組み、座る。
転んで打った膝頭は、手当が施されているとはいえ、曲げた拍子にずきずきと痛んだ。
隣で寝ていた鉄扇の姿は既になく、寝具も部屋の隅に片付けられていた。
同じように、透は布団を畳んで、部屋の隅に並べた。
周囲はしんと静まり返り、人の気配がない。
透は囲炉裏部屋に面した襖をそっと、開けてみる。
誰も、いない。
誰もいないが、囲炉裏の中央では燠火が弱弱しく、室内を温めていた。
「目が覚めた?」
囲炉裏部屋とは反対側のガラス障子の向こうから声を掛けられ、透は慌てて襖を閉めた。
ガラス障子を開けたのは、優しい笑みを浮かべた老女だった。
透の食事を載せた盆とお櫃を膝をついた脇に置いている。
白髪の混ざり具合から、年は60を過ぎているようにみえた。
老女は部屋に入ってくると、畳んだ布団の近くに寄せてあったら小さなちゃぶ台に盆を置いた。
「お屋敷の賄いで、福といいます」
お櫃から茶碗にご飯を移しながら、老女は自己紹介した。
「鉄さんは山を降りて村長さんのお宅に。もう、戻ってくるんじゃないかしら」
最後に、湯呑に茶を注ぎ、「食べ終わったら、声を掛けてくださいな」と湯気が立つ盆を残して、福は出て行った。
 
遅い朝食を終え、盆に食器などを載せて、部屋を出る。
廊下に出た反対側の壁に引き戸がいくつか並んでいて、台所はここかとうろ憶えにひとつの前に立ち、ふと、足を止めた。
右手奥に伸びる廊下の先へ視線を送る。
中庭を望むガラス障子からは、穏やかな陽の光が差し込んでいた。
その所為も相まってか、廊下の奥は、昨日、見たときよりも闇が濃い。
台所へ入り、昼食の仕度に取り掛かっていた福に声を掛け、食器を流しに入れる。
洗い物を手伝おうかと申し出たが、福は「いいのよ、ありがとう」と笑顔で返してきたので、透は小さく会釈をして台所を出た。
廊下に立って、再び奥の暗闇に目を向ける。
覗いていいとは言われていないが、覗いてはいけないとも言われていない。
透をそこへ向かわせたのは、単なる子どもの好奇心だ。
中庭を横目に通り過ぎ、闇に向かって、足を踏む入れる。
少し進んだところで、一度、来た方を振り返った。
そう、長く進んだわけでもないのに、中庭から射す光がひどく遠くに思える。
透は意を決したように、前を向き、歩を進めた。
闇が深まり、足元が徐々に覚束なくなる。
「!」
前に出した右足に板の感覚がなくなり、反射的に引っ込めた。
危うく転げ落ちるところだった。
よくみると、そこは階段で、数段、下へ降りていた。
壁を伝いながら、なるべく足音を立てないように降りていく。
降りきったところの床に立った透の前に、薄暗い空間が広がっていた。
人の気配はない。
床は板敷きで、足の裏がひんやり冷たかった。
透は階段前の広間を横切り、開け放たれた襖の脇から奥を覗いた。
覗いた部屋の左右もそれぞれまた、別の部屋へと繋がる口が開いている。
部屋の造りは畳が敷き詰められた和室の体を為していたが、洋風のソファや、モダンなキャビネットが配置され、古臭さを感じない。
薄暗い、静まり返った空間の広がりに、その先へ足を踏み入れることは躊躇われた。
引き返そうとして、透は足元に目を遣り、立ちすくむ。
板敷きの間と畳みの間の境界に、等間隔に穴が穿たれている。
不審に思って、天井を見上げ、透は生唾を飲み込んだ。
天井にも穿たれた穴が並んでいた。
そして、床と天井の穴はそれぞれ対を為している。
それらが何を意味しているのかを理解したとき、くるっと背中を向け、透は足早に部屋を後にした。
階段を駆け上がり、廊下の向こう、中庭から射す光を目指す。
中庭に面した廊下の途中まで戻ってくると立ち止まって一気に息を吐き出した。
(あの部屋は)
心臓の鼓動が早い。
収まるのを待っていると、長い廊下の突き当たり角から鉄扇が姿を現した。
村長宅から戻ってきたのだろう。
「透?どうかしたか?」
風呂敷に包んだ荷物を持って、近付いてくる。
見知った人の気配が、ひんやり冷たかった空気に温かさを取り戻した。
透は呼吸を落ち着かせ、膝に手をついて少し前に屈んでいた身体を起こした。
「蔵の、書物を見てみようと思って」
鉄扇には悟られぬように、咄嗟に思い浮かんだ言い訳で取り繕う。
平常心を保つよう努力したが、それは無意味だったかもしれない。
「そうか。ここに滞在する間の着替えを持ってきたぞ。大きさが合うか、ちょっと見てくれ」
(着替え?)
そういえば、と、透は思い出した。
着ていた服は泥まみれで、浴衣に着替えた時に、鉄扇が風呂場の脱衣場にある洗濯かごに入れていた。
鉄扇に続いて、部屋の中に入る手前、透は少しだけ立ち止まった。
中庭に沿って奥に伸びた廊下の先の闇は変わらずにそこにある。
透は小さく首を振って意識をそこから引き剥がし、ガラス障子を後ろ手で閉めた。
 
昼過ぎ、散策に出たいと鉄扇に訊いてみたところ、すんなり許可してくれた。
止められるかもと内心どきどきしていたので、逆に透の方が拍子抜けした。
「どこへ行くにもかまわんが、夕方の4時には戻ってきてくれ」
その時刻になると、山向こうの学校に通う子供たちが戻ってくるのだという。
「子どもらに見つかると少々まずいことになるからな」
薄々勘付いてはいたが、透の滞在は、村にとっても厄介ごとなのだろう。
鉄扇に見送られ、玄関を出ると、正面の大門は閉まっていた。
躊躇ったが、すぐに脇の通用口が開いていることに気付き、そこから出た。
屋敷は山の斜面を切り開いた土地に建っていた。
眼下に麓の村が見える。
心に引っかかりを確かめようと右手の垣根沿いに進んだ。
垣根沿いに角を折れ、山に対面したところで、足を止めた。
屋敷の裏手には崖が迫っている。
透が足を踏み入れた座敷の辺りは、崖の強固な岩盤に呑み込まれていた。
昼間にもかかわらず、覗いた室内が薄暗かったのはその所為か。
崖を見上げながら、座敷の位置にあたりをつけ、歩み寄る。
からからと小石が音を立てて転がり落ちてきた。
小石が落ちていった先に視線を送ると、小さな隙間が口を開けている。
透はしゃがんで丈の長い草をそっとかき分け、中を覗いた。
大きさからして、明り取り兼換気用として空けられた小窓だろう。
その奥に広がる空間を見渡して、目を閉じる。
座敷牢。
いや、だったというべきなのか。
床と天井に空いた穴は、必要となれば、鉄棒をはめ込むためのものだ。
透は立ち上がって、来た道を引き返した。
 
携帯端末をポケットから出して、画面を操作しながら、麓への道を下って行く。
予想はついていたが、電話は繋がらず、ネットワークアクセスはどれも「範囲外」と表示されていた。
今どき、電波が届かない場所があることに、むしろ、驚く。
歩きながら、これまでの情報を整理した。
鉄扇に福、それに、あれ以来姿を見ていないが、鉄扇の息子の濡羽。
これまでに出会った人々は、特におかしなところはない。
山向こうの学校に子どもたちが通っている等の話を聞いても、子どもの少ない過疎の村では、昨今、珍しい話でもない。
どこにでもあるごく普通の村に見える。
それなのに、外部との通信手段は一切断たれている。
どこかの民家で電話を借りることを試してもいいが、おそらく、それは叶わないだろう。
断られるだけならまだしも、不審な行動と怪しまれるのは割に合わない気がした。
坂道の途中、普通車がすれ違えるほどの幅がある脇道を見つけた。
道は、少し奥に進んだところで緩やかにカーブを描き、その先に何があるのかはわからない。
民家かもしれない、と思いつつ、だったら途中で引き返せば良いと思って、足を踏み入れた。
道の両脇は枯れた薄で覆われている。
カーブを曲がったところで大きな門が見えてきた。
門の端からは梵鐘の一部が覗いている。
(お寺?)
透はどっしりと重厚ないでたちの門の真下に立ち、頭上を見上げた。
太い柱に掛かった分厚い板に寺の名前らしきものが書かれていたが、相当な年代ものらしく、掠れてしまっていて読み取れない。
門柱の間を通り、内側を窺った。
真正面は見上げると首がいたくなるほど屋根が高い典型的な和様仏堂で、他と比べても一線を画する姿から、本堂と思われる。
石段の手前には箱が置いてあった。
覗いてみると、硬貨が数枚、底で鈍い光を放っている。
分厚い石を積み上げた階段を数段上がり、透は少し開いた障子戸から、中を覗いた。
(?)
狐につままれたように、障子戸から一度、身体を離して再び隙間に顔を寄せた。
板敷きの床が広がる空間奥の内陣、通常なら須弥壇にまつられているはずの本尊の姿がない。
代わりに大きな牛の置物が寝そべっていた。
(寺、だよね?)
背後を振り返り、通ってきた門や、梵鐘を確認し、透は首を捻った。
「あら」
突然、本堂の脇から声を掛けられ、透は飛び上がるほどに驚いて石段を降り、まっしぐらに門に向って走った。
「あら、あら」
門を通り抜け、カーブの辺りで速度を緩め、深呼吸をして振り返ってみた。
門を少し出たところに、20代後半と思しき和装の女が立っていた。
にこやかに微笑んだ顔は、遠目からでも綺麗だった。
どこかで見たような気がするのだが、思い付く限りでは、あんな美人の知り合いはいない。
 
山道を下り切ったところで、眼前に田圃が広がった。
田植えにはまだ早く、冬枯れした稲の刈り残しや雑草が耕されるのを待っている。
携帯端末で時刻を確認すると、午後2時を過ぎたところだ。
透は田圃の畦道を抜け、中央を東西に抜ける一本道に出た。
東の方に目を遣ると、古びたバス停が見える。
脇に梅の大木が立っていた。
葉が茂れば、夏は良い日陰を作ってくれそうだ。
掘立小屋のようなバス停には、意外と頑丈そうなベンチが設えてある。
壁の板に貼り付けてある時刻表を見つけた。
午前と午後に1本ずつ、午後は3時と記されていた。
バスを待ってみようかと、思ったが、鉄扇の忠告を思い出す。
「試してもかまわんが、この村からは出られんぞ」
透の村に戻るには、6日後、来た道を戻るしかないという。
そんなことがあるのだろうか。
どこにでもありそうな鄙びた風景が、自分が知っている世界とは違うように思えてきて、透は身震いをした。
「どうかしたか?」
突然、話しかけられ、悲鳴を上げそうになったが、寸でのところで呑み込んだ。
自転車に乗った警官が不思議そうに透を見ている。
不審者と思われたのだろうか。
「あ、あの」
事情を説明しようとしても、しどろもどろでうまく言葉が出てこない。
警官はちょっと透を眺めてたが、すぐに、思い出したといった表情から破顔し、気さくに話しかけてきた。
「君が、檀さんとこの。遠い親戚なんだって?」
一時的に預かっている遠い親戚の子ども。
それが滞在中、透に与えられたこの村での身分だった。
「すまんな、口裏を合わせてくれ」と鉄扇が言っていたことを思い出す。
「あ、はい」
「そうか、そうか。山は日暮れが早い。そろそろお屋敷に戻った方がいいぞ。道に迷ったなら送ってやるが」
「あ、いえ、大丈夫です。一人で戻れます」
別に何か悪いことをしたわけでもないのに、透は慌てて、警官に背を向け歩き出した。
元来た田圃の畦道を取って返し、屋敷へ続く山道の入り口で、立ち止まり、バス亭を振り返ると、警官の姿はなかった。
なんだか、見張られてるような気がしたのは気のせいだったか、と、透は緊張を解す。
屋敷へと続く山道を見上げ、さて、このまま戻ったものかと思案した。
透が立っている場所は、上る道と、山に沿うように伸びている平坦な道の分岐点だった。
この際、鉄扇の言葉を試してみようと、透は平たんな道に足を一歩、踏み出した。
 

神隠し。−−−<3>
 
鉄扇をはじめ、屋敷の住人は相当な早起きらしい。
三日目の朝は寝坊しなかったにもかかわらず、鉄扇の寝具はやはり部屋の壁際に片付けられていた。
しんと静まり返った部屋で、二日目と同じく、福が部屋まで運んできてくれた朝食をいただく。
もくもくと箸を動かしながら、昨日のあれは鉄扇の言う通りだったのかと寝起きの頭でぼんやり考える。
この村からは出られないと言った鉄扇の忠告を試してみようと山沿いに続く道を進んだ。
花曇の空ながら、太陽は空で柔らかく光を放っていた。
道に迷わないよう、太陽の位置を確認しながら歩いていった。
30分ほど経ったところで透は足を止めた。
少し先に見覚えのある石像が立っていた。
(あれ?)
透は石像に走り寄って、そこから山を登る道を見上げた。
石像は、屋敷へと続く山道の上がり口の目印だ。
石像の前に立ち、30分前に進んだ方向と、戻ってきた方向を交互に見比べ、首を捻った。
理論上は一周して戻ってきたことになる。
が、それはあり得ない。
透は太陽をずっと左に確認しながら歩いていた。
方角がどこかで変わったというのなら、途中で太陽は右側に位置を変えたはずだ。
狐につままれたような面持ちで、携帯端末で時刻を確認すると、午後2時30分を回ったところだった。
夕方4時にはまだ少し余裕があった。
透は深呼吸をすると、再び、山沿いの道を歩き出した。
 
透は少し冷めた味噌汁の椀を口元に持っていき、ひと口すする。
程よい塩加減の合わせ味噌だ。
具は数種類の山菜で、歯ごたえがある。
 
2度目は慎重に、些細な変化も見落とさぬように歩いたつもりだった。
それでも、結果は同じで、30分ほど歩いた後に、石像の前に戻ってきた。
春の温もりの中、どこか涼やかな一迅が透の首筋を撫でていった。
なんとなく、山に笑われているような気がした。
遠くで烏が鳴く。
鳴き声が聞こえた方角に、その姿を探したが、背の高い木々に遮られ、見つけることは叶わなかった。
陽の傾きが大きくなり、影が道に長く尾を引いていた。
さすがに三度目を試す気力はなかった。
透は大人しく屋敷へ戻る道を辿った。
 
最後に残しておいた卵焼きを箸で二等分し、ひとつを口に運んだ。
優しい甘さが口の中に広がる。
(うまい)
思わず頬が緩んだ。
屋敷に戻ってからもずっと考えていたが、何が起きたのかはわからずじまいだった。
鉄扇の息子、濡羽の言葉を思い出す。
「村へ帰るには来た道を辿るしかない」
その「道」が開くのは七日後だとか。
二日経ったのでの正確にはあと五日だ。
いまだに信じ難いが、自分の村へ帰るには、彼の言う通りにするしかなさそうだ。
 
朝食の片付けを終え、襖を開けて囲炉裏の部屋を覗くと、鉄扇は新聞に目を通していた。
透は鉄扇の横に座った。
鉄扇の両脇には数種類の新聞が積まれている。
「起きたか」
ばさっと新聞を畳んで鉄扇は片方の山にそれを置いた。
透が積まれた一番上の束に手を伸ばすと、「もっと良いものがあるぞ」と言って、ゴソゴソと新聞の束をかき分けた。
「好きに使うといい」
そう言いながらぽんと渡してきたのは10インチのタブレット端末だった。
屋敷に滞在してから、目にした家電製品は古いものが多かった。
パソコンはもちろん、テレビすら見当たらず、昭和初期にタイムスリップしたかと疑っていたのだが、そこへ、突然、出てきたハイテク機器に、透は唖然としてしまった。
「使い方、わかるか?」
腕を組んだ鉄扇が訊いてくる。
透は起動ボタンを押して画面を表示してみた。
モバイルは基本、どれもそう違いはない。
自分が使っている携帯端末の画面とそう変わりはなく、「大丈夫」と答えた。
「そうか。俺はそういうのはあまり得意じゃないから、わからんといわれても、困るところだった」
背面のロゴから、世界規模でマーケットを展開するコンテンツ提供サービスの専用端末だとわかった。
電子書籍はもちろん、ゲームコンテンツも使い放題に設定されている。
「何もない村だ。退屈だろうと息子が持ってきた」
「濡羽さん?」
鉄扇は頷いた。
「愛想のないやつだが、ああ見えて、気が利く」
などと言ってみせても、破顔した鉄扇の様子から、息子との関係は良好なことが窺える。
透は端末を胸に抱えて、礼を言った。
 
囲炉裏部屋の一角、壁が少し引っ込んだところに一振りの刀が安置されていた。
透がそれに気付いたのは、タブレットを散々いじり、目が疲れてきて、少し休憩しようと思った時だった。
囲炉裏の縁にタブレットを置いて、四つ這いで近づく。
銀糸黒糸の柄、年代を感じさせる鍔から伸びる刀身は時代劇などで侍が振り回しているものよりも長い。
物珍しそうに透が見ていると、鉄扇が背後から壁に掛かっている書の冒頭を読み上げた。
「旅の僧有り。
 或る時、村を訪ふ。
 外れに廃寺あり。
 之を宿の代わりにせんと欲さば、村人の堅く止めて曰く、近く寄る者無し。
 僧、其の故を問ふ。
 或る村人、進み出て曰く、いづくよりか来たりて、住みつきたる化け物あり。
 此れ近付く者を襲ふ」
びっしりと文字で埋められた書には、刀の由来がしたためられているらしい。
刀に引き寄せられるように顔を近づけた透を鉄扇が制した。
不思議そうな顔で見上げた透に、鉄扇はにやりと笑って続けた。
「そいつは妖刀だ。人の生気を食らう」
「妖刀?」
透はぎょっとして刀を覗き込むように乗り出していた身体を引いた。
美しく黒光りする鞘に収まった長刀が、途端に禍々しい気を纏い、透は身震いをした。
「こんな話があるのさ」
鉄扇は妖刀の所以を語り始めた。

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