絵師名簿No. 008244

毬屋(まりや)

アリスとかきつばた

No. 008244 Last Update:2020/10/01 Registration date first time:2016/11/04 CT

お名前
毬屋(まりや)
希望感想
甘口:欠点指摘不要。お手柔らかにお願いします
メッセージBox メール有り
・出会い・
 

陰陽家には三つの蔵がある。
その中で屋敷の者から一の蔵と呼ばれている蔵の中に入った染井銀之助は、埃っぽさに思わず眉をひそめた。
銀之助は陰陽家の使用人である。幼い時分からこの家に仕え、この蔵の中に入ったことも少なくないが、今回もそう代り映えのある風景ではない。もう捨ててしまえばいいのにと思うほど昔から目にしているもので溢れているのだが、多分自分には分からずとも意味があるからこそ置いてある物ばかりなのだろう。そう、例えば〈あれ〉の存在とか。
 
「…古い物ばかりで、特に面白い物なんてありまへんで…?」
 
片目を隠していた長い前髪をかき上げ、蔵の中を興味深げに見回している小さな背中に向かって声をかけた。
 
「いーじゃん、滅多に入ることなんてないんだし!」
 
楽しそうな声が響く。
声の主は半ば無理やり自分に引っ付いてこの蔵に入ってきた、いずれは陰陽家の当主になる予定の少年である。
 
「…ちょっと整理しに来ただけやのになんで子守りなんて…」
 
はぁ〜、と聞こえよがしに溜息をつけば、おーい聞こえてんぞー、と不満げな声が返ってきた。
…憎まれ口を叩いてはみたものの、銀之助は自分より幼いこの主のことを、実は気に入っている。何度も逆境に立たされ、その都度涙を流そうとも己を奮い立たせ周りを明るく照らしてくれる、そんな健気にも逞しくも映る姿は素直に好感が持てた。
 
「…いーじゃん、もうすぐ会えなくなっちゃうんだしさー…」
 
先ほどより少し小さい、拗ねたような声音。寂しさも混じっているような気がして、銀之助も素直に自分の気持ちを口にした。
 
「…せやね、有栖様がおらんくなったら、ここも静かになって寂しなるやろなぁ」
 
もうすぐこの小さな主―――陰陽有栖は軍学校に入る。本人たっての希望の黒軍の学校だ。
長期の休みには帰ってくることもあるだろうが、寮に入って向こうで暮らすことに決まっている。こんなやりとりが気軽に出来るのもあと数ヶ月しかないのだ。
 
「俺も寂しい!だから今のうちにみんなといっぱい一緒にいるって決めてんの!銀ともな!」
 
体ごとこちらに振り返って力説する少年に、クスリと笑みがこぼれる。
 
「はいはい、分かりましたけど、仕事の邪魔はせんといてくださいよ」
 
「分かってるって!」
 
声に元気が戻った気がして、少しこちらの気持ちも浮上する。
すると奥に進みながら蔵の中を物色していた有栖が、不意に不思議そうな声を上げた。
 
「なんだ…これ。刀…?」
 
怪訝そうな声に振り向けば、銀之助が初めてこの蔵を訪れた時には既にそこに在った―――矛盾した言い方をすれば見慣れているけれど現在(いま)になっても見慣れることのない、異質な存在を前にしゃがみ込む有栖の後ろ姿があった。
突き当りの壁を背に、薄汚れた白い布でぐるぐる巻きにされ、赤い「封」の文字が書かれた札が所々に貼られたそれは。
 
「ああ、〈かきつばた〉ですわ」
 
「かきつばた?」
 
漆塗りの刀掛けに置かれているそれを見ながら、刀…だよな?と小さく聞いてくる主に、銀之助はこくりと頷いて返す。
しゃがむ有栖の隣に立ち、両膝に手を置き中腰になる。
 
「その時代からは考えられへんような美しい素材とデザインで作られた名刀やとか。実戦用というより鑑賞目的で作られたんですやろな」
 
実際その程度のことしか銀之助は知らなかった。ただ―――、一見禍々しくも映るようなその外見とは裏腹に、何故か清浄で神聖なものが祭られているような、そんな錯覚を銀之助は覚えるのだった。…錯覚、だろうか?
 
「なんでこんなぐるぐる巻きにされてんの?」
 
その声にはっと我に返り、馬鹿馬鹿しい、と先ほど思ったことを払拭する。そう、現実的な自分らしくない考えだ。しかし、見る度そう思ってしまうからこそ、銀之助はいつも一の蔵に入る度この刀のことを〈意識的に〉目に入れないようにしてきたのではないだろうか。
コホン、と咳ばらいを一つ。
 
「…なんでも、〈いわくつき〉やとか」
 
「いわく?どんな?」
 
「さあ?そこまでは私も知りまへんで」
 
そう言うと、棚の整理の作業に戻るべく、有栖から離れて背を向ける。
 
「ふーん…」
 
その間も興味深げに有栖は白い布で覆われた刀を見つめていた。
 
「なぁ、触ってみてもいい?」
 
その言葉に、銀之助は己の心が驚きに激しく揺さぶられたことを確かに自覚した。
触る。あの白い布と、得体の知れない札で覆われた刀を。
それは自分では想像も出来ないことだった。触るなと止められていた訳ではない。ただ、自分がそれを、そんなことをしてはいけないと、強く思い込んでいたことをこの時初めて銀之助は自覚したのだ。
それを目の前の少年は、こうもあっさりとそれを実現しようとする。そうすることが当たり前のように。
…多分、一介の使用人風情が勝手に頼まれてもいない物に触るなと、そう自分が自分に警告していたのだ。そう思うことに―――思い込むことにした。
その点、有栖はいずれ陰陽家の当主になる人物。なんの問題もあるまい。
 
「ええですけど、呪われたりなんかに憑かれても知りまへんで〜」
 
両手を幽霊の手つきを真似てだらんと下げ、おどけたように笑って言ってやった。
 
「脅かすなよ」
 
有栖も笑って、了承を得たとばかりに刀に向かって手を伸ばす。
白い布で覆われた刀の柄をぎゅっと握る。
すると―――
 
パンッ!
 
大きく弾けた音がした。勢いよくばらばらになった布の白と、破れた札が宙に舞った。
目を見開いたのは自分だけではない。しかし驚いた小さな主の手は、それでもしっかりと刀―――かきつばたの柄を握っていた。
もうどれだけの間手入れされていないのだろう。なのに今まさに完成したばかりのように美しく、傷一つ見当たらないそれ。
神々しく有栖の手の中で光り輝くかきつばたは、うっすらと淡い桜色の膜に覆われていた。
 
「持ち主を…選んだいうんか……?」
 
やはり自分らしくない感想しか出てこなかった。
しかし、目の前の光景から目が離せない銀之助には、かきつばたが長い年月を経て漸く主を見つけた喜びに輝いているようにしか見えなかったのである。
 

**********************
 
ぶ…文才がなくてすみません…日本語が下手ですみません…読み難くてすみません…(ノД`)・゜・。
アリスとアリスの愛刀、かきつばたの出会いでした。確かかきつばたを初めて描いた時、陰陽家に古くから伝わっている刀という設定でこちらに書いた記憶があるのです…が…合ってるかな…(;´∀`)
このお話の銀之助さんは二十八歳くらいを想像してます。関西弁が迷子…。銀之助さんが幼い頃に関西弁を話す地方から陰陽家に越して来たにも関わらず標準語にならなかったのは、家族も一緒に来て陰陽家に仕えているからです。親が関西弁なのでそのまま関西弁で育ちました。
因みに何故、どんな〈いわくつき〉なのかは考えてません(笑)何があったんだろうな〜〜。いつか考えられるといいな…。
かきつばたに憑いてるものもいつか描けたらいいな〜と思います(∩´∀`)∩
 
**********************
 
今回絵の更新がないので大昔にここに載せた中で自分の気に入ってる絵を次ページから載せたいと思います。
ほんとに何年前の絵だろ…今より輪をかけて下手すぎて恥ずかしいんですがそりでも気に入ってるものを載せときまする。


 

 

 



 

 

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