お絵かき掲示板Art.netイラスト講座>投稿イラスト講座vol.11『着物の描き方2』ぺんたさん

投稿イラスト講座vol.11『着物の構造と描き方2』

ぺんたさん 制作日:2009年1月3日

『着物の構造と描き方2』平安時代の男性衣裳

いつもお世話になっております,ぺんたです。
さて,前回の着物講座で,江戸末期から現代までの着物の構造についてはご説明したのですが,その続編としまして,「和風絵」の中でも需要が多いと思われる「平安時代の男性衣裳」について講座をさせていただくことにしました。

 平安時代といっても期間が長いのですが,服装の常で,堅苦しくて着にくいフォーマル衣裳から,だんだんカジュアル化していくという流れがありますので,まず基本のフォーマル衣裳から順番にご説明したいと思います。
今回,解説する衣裳は次の4つです。

  • 1「直衣(のうし)
     これは光源氏ものとか王朝ものに出てくる身分の高い貴族の男性が着る,スーツのような位置づけの,オール絹製の服装です。天皇の許可があれば,宮中に行くときも着られます。
  • 2「狩衣(かりぎぬ)
     貴族の人のスポーツウエアとか,陰陽師の通常の服装です。絹製と麻製があり,麻製は召使みたいな身分の低い人も着ます。
  • 3「水干(すいかん)
     牛若丸とかの子供,白拍子,平民とかの服装です。謎の少年…という設定ならコレでしょう。基本は麻製ですが,高級品には絹もあります。
  • 4「直垂(ひたたれ)
     武士と平民の服装です。基本は麻製ですが,高級品には絹もあります。
イラスト/ぺんたさん

 それぞれ,かなり構造が違いますので,
皆さんのマイキャラの身分と時代設定に合わせて,かっこよく着せてあげてください。

平安時代の男性衣裳△ | 1 直衣|2 狩衣▽|3 水干▽|4 直垂▽

1 直衣(のうし)

 身分の高い貴族の普段着です。(天皇の前に出るときは,これのさらに高級バージョンの「束帯」(束帯)というヤツを着ないといけないのですが,さすがに需要がなさそうなのでパスしました。)重ね着の仕方は次のとおりです。

  • (1)小袖(こそで)
    小袖=白い絹製の着物(構造は現代のものと同じ)を肌着として着る。図では衿のところに見えている白いものが小袖です。長じゅばん+肌襦袢(はだじゅばん)とお考え下さい。
  • (2)(ひとえ)
    単=袖の幅が普通の着物の2倍あって,袖口が全開になっている着物をその上に着る。図ではピンクです。袖幅が2倍,という意味ですが,現代の着物ですと,反物の幅いっぱいの長さの袖がついておしまいのところ,左下の図のように,袖だけで反物2つ分の布がつなぎあわせてあるわけです。これじゃあ手が袖の外に出ませんが,平安時代的にはこれでOKで,長すぎる部分は折りたたんで,上着といっしょに指で押さえて持つんです(めんどう…)。図のボクちゃんもおそでのはしっこを持ってますね。
  • (3)指貫(さしぬき)
    指貫=かぼちゃというか,バルーンスカートみたいな袴を,単の上からはきます。図ではオレンジです。すそがどうやったらバルーンになるかというと,左上の断面図のように,膝下ではかまのすそをしばりつけておいて,それから袴をはくと,すそがふんわりとわっかになるんです。めんどう…
  • (4)直衣(のうし)
    直衣=ジャケットのようなもの,これが上着です。袖口は上から下まで全開,袖幅も(2)の単と同じで2倍です。図ではわかりやすくするために紫と緑で色分けして塗っていますが,実際にはこれ全部が同じ布地です。平安時代には,正式の衣裳は衿が丸いことになっていて(中国のマネ),衿には紙でできた固い芯が入っています。緑部分は,欄(らん)といって,歩くときに足が開くよう,そこだけスカートみたいに裾広がりにしてあります。なので,立っていると,左右のフレアー部分がぺろんと前に垂れ下がり,菱形になって見えます。また,左上の断面図のように,おなかのあたりは,体の前後ともに,たるみを作るようになってます(前側はポケットがわりに物を入れる)。
  • (5)烏帽子(えぼし)
    烏帽子=帽子のようなものです。髪の毛をオールバックにして,ポニーテールをしばってちょんまげを作り,そのまげに,帽子を糸でしばりつけます。なお,平安時代には,烏帽子などの帽子をかぶらずに他人と会うことはゼッタイになく,烏帽子なし,ということは,現代でいうとパンツもズボンもはかずに下半身すっぱだかで他人に会うような位置づけでした(会社をクビになるほどの大事件です。)。なので,貴族の絵で烏帽子なし,はできたら避けたいですね。
1 直衣(のうし)

直衣の構造をさらにこまかく見ていきます。

さきほどの断面図で見ていただいた,背中側のたるみの状況が,第2図の左上です。折り込み部分,と書いたところが,袋のように垂れ下がっています。

 次に,指貫(さしぬき)の構造を図解するため,左足と右足にオレンジの濃淡をつけてみました。右上をごらんください。本当は全部同じ色のはかまですが,付属品の帯のところを紫に塗っています。まずひざ下ですそのはしっこをしばったら,足首のところがキレイにたるむように調整して持ち上げながら,はかまのの前側をひもで胴体にくくりつけ,そのあと,後ろ側を胴体にくくりつけると完成です。

 最後に,首のところを拡大しました。こういう丸えりの場合,基本的には,絹製のわっかと,絹製のころんとしたボールを,ボタンのようにひっかけて止めるシステムです。これを「とんぼ」といいます。えりをきちんと止めるのは暑苦しいらしく,プライベートではとんぼを外してダラっとする,ということもあったようです。

 なお,直衣スタイルのとき,室内でははだしで,外に出るときは,うるし塗りの黒いクツをはきます。形はティッシュボックスに足を入れたみたいな長方形です。

1−2 直衣(のうし)2

平安時代の男性衣裳△ | 1 直衣△|2 狩衣|3 水干▽|4 直垂▽

2 狩衣(かりぎぬ)

 直衣は布地が多く,重くて非活動的なので,貴族が狩りに行くときなどのために,気軽なスポーツウエア兼ホームウエアとして開発されたのが狩衣です。また,身分が低めの陰陽師などは,ルール上,直衣を着ることができないので,基本的には狩衣姿です。

貴族や陰陽師の狩衣は絹製ですが,召使などは麻製のこともありました。現代では,神社の神主さんの多くが,コレを着ています。 重ね着の仕方は次のとおりです。
(1)小袖…直衣と同じ。
(2)単…直衣と同じ。
(3)指貫…直衣と同じ。
(4)狩衣(かりぎぬ)=特徴は……

 ア: 胴体の幅が反物1つ分,つまり直衣の半分。袖の幅は直衣と同じで反物2枚分。図の左上をごらんください。つまり,袖かたっぽだけで胴体の倍の幅です。
 イ: 袖と胴体がほとんど縫い合わせてなくて,背中側の一部しか縫っていないこと。図の左下をごらんください。いまにもちぎれそうです。
 ウ: 袖のはしっこを少しずつ切ってあって,そこにリボンのような平たいヒモ(「袖くくりのひも」,といいます)が通してあること。図の右下をごらんください。濃い水色が袖くくりのヒモです。スポーツとかで,うでまくりしないといけない場合,このヒモでぎゅーっとお袖をしぼってうでまくりすることができます。岡野玲子のマンガ「陰陽師」では,これでそでまくりしてお産の手伝いをする安倍清明を見ることができます。
 エ: 胴体部分の前とうしろが,そで以外のところでは完全にバラバラで,まるでバスタオルの真ん中に穴をあけて首にかぶったみたいになっていること。

3・4 狩衣(かりぎぬ)

ここからは,次の図の人物をごらんください。

「狩衣(かりぎぬ)」続き「人物」

袖と身頃の区別をしやすくするために,多少色を変えていますが,袖と胴体は同じ色です。

前側の胴体部分は,一応,首のトンボのところで2重に重なった構造ですが,後ろ側はペラペラの布一枚だけです。
それを,上から,同じ材質の布の帯(図では説明のために藤色…ほんとうは胴体や袖と同じ色です)で締めて,かっこよく見せているわけです。

狩衣の前側は,直衣と同じように,ポケットがわりのたるみを作るので,帯が見えませんが,後ろはたるみを作らず,ぴしっと体に沿わせて,そこに帯をしめるので,背筋がキレイに見えます。
うしろのすその長さは,正式のときには1mぐらい引きずるほど長くしますが,カジュアルシーンでは床スレスレです。

(5)烏帽子…直衣と同じです。
クツとかも直衣と同じですが,麻製の狩衣の場合はぞうりかも。


平安時代の男性衣裳△ | 1 直衣△|2 狩衣△|3 水干|4 直垂▽

3 水干(すいかん)

狩衣すら着られない低い身分の人たちや,貴族の子供が主として着ていたのが水干(すいかん)です。
水干とは,水で洗って,干して,また着られる,という意味。
つまり,絹の直衣や狩衣は,基本的に洗濯不可だったのです(汚れたら,そのまま自分より身分の低い人にあげて,自分はおニューの着物を作って終わり。)。
ということで,洗える素材=麻製の水干は,身分の低い平民や,汚しやすい子供の服として一般的でした。ただし,後から,白拍子(静御前のように,貴族に踊りを見せて,ホステスのようなことをする水商売の人)などは,絹製の高級水干を着るようになりました。

重ね着の仕方は次のとおりです。

  • (1)小袖…
    直衣と同じ。ただし,麻製でしょう。
  • (2)単…
    着ないことが多いです。図の牛若丸くんはピンクの単を着ています。
  • (3)指貫…
    直衣と同じようなバルーンタイプの袴をはきますが,直衣と同じものだと,もたもたして不便なので,長さが短く,着たときにふくらはぎから下がにゅっと出るくらいの短いものを着ました。これを「葛袴(くずばかま)」といいます。もっと貧乏だと,最初から足首のところでちょん切ってあって,すそがバルーンにならない簡単なハカマ(現代のハカマみたいな形のもの)=切袴(きりばかま)をはきました。

(4)水干(すいかん) 基本的な形は狩衣とほぼ同じです。
違うところは,

  •  ア 首の止め方が,トンボではなくて,長い衿ひもをちょうちょ結びにすること。なお,平安時代の衿ひもの色は,赤色と決まっていたそうです。
  •  イ びりっ,と破れやすい場所に,補強用の糸をつけたこと。太い組紐のような糸を布に通して,ヒモの端をほぐしてポンポンみたいにします。図では黄色いフワフワのものです。菊の花みたいなので,「菊綴」(きくとじ)といいます。そでの外側,胴体中央,背中の袖と胴体の接着部分,はかまの外側に,それぞれ2個ずつセットにしてつけます。
  •  ウ はかまを上に出して,上着を中に入れて着ること。子供がパジャマを着る時に上着を中に入れるような感じですね。帯はハカマとは違う色が多く,図では緑色に塗っていますが,白色とかが多かったようです。

(5)烏帽子…
直衣と同じ。ただし,女性と子供は,帽子義務は免除されているので,ポニーテールの美少年も,ロングヘアさらさらの白拍子もOKです。

5 水干(すいかん)

 なお,水干スタイルのときは,足にはぞうりをはきます。靴下はナシ。素足です。
 ちなみに,平安時代のホステス,白拍子が,水干を「ご出勤スタイル」として着る場合,ハカマとしては,指貫ではなくて,ずるずる床にひきずる長いハカマ(女性用)をはくことと,烏帽子をかぶることが特徴てす。

平安時代の男性衣裳△ | 1 直衣△|2 狩衣△|3 水干△|4 直垂

4 直垂(ひたたれ)

 イナカの平民や,武士が着ていた着物は,もともと,丸えりではなくて,普通の着物えりでした。えりが開くのを防ぐために,胸の所にヒモをつけてあるのですが,これを直垂(ひたたれ)といいます。
 現代の着物によく似ていますが,違うところは袖幅がやはり直衣,狩衣,水干と同様に2倍の幅なこと。ただし,狩衣や水干と違い,胴体と袖はきちんと縫い合わせてあります。

  • (1)小袖…
    直衣と同じ。ただし,麻製でしょう。
  • (2)単…
    着ないことが多いです。
    図のお侍さんはおしゃれなのでピンクの単を着ています。
  • (3)はかま…
    切袴(きりばかま)です。
    現代のものとほぼ同じですが,帯は多くの場合,白いことが特徴です。
    (図では説明のため,緑色にしています。)
  • (4)直垂(ひたたれ)=上に書いたように,
     ア 袖幅が2倍であること,
     イ 袖くくりのヒモがついていること,
     ウ 菊綴がついていること
     エ 胸ひもがついていること
    以外は,現代の着物とほぼ同じです。ただし,直垂の菊綴は,ポンポンではなく,図の右下のように,8の字になっています。
    また,胸ヒモのとめつけ位置には,ハート形の飾りがついています。
  • (5)烏帽子… 貴族のようにタテに長い「長烏帽子」は,武士風情が着るのはちょっと,ということで,長い烏帽子を真ん中で左か右にぺしょんと折った「折烏帽子」をかぶりました。
    止め方も,ちょんまげに内側で結ぶのではなくて,無骨なアゴヒモでぎゅっと縛ります。
     足下はハダシに草履ですが,のちにはタビもはくようになりました。
直垂(ひたたれ)

平安時代の男性衣裳△ | 1 直衣△|2 狩衣△|3 水干△|4 直垂△

あとがき

さて,駆け足でしたが,なんとなくおわかりいただけましたでしょうか。
時代衣裳については,やはり資料集めが一番効果的です。

今回の講座に主として使った便利資料が,「素晴らしい装束の世界 いまに生きる千年のファッション 八條忠基著,誠文堂新光社 刊」3400円です。グラビア満点,着物の柄も満載の,買って損のない名著ですので,Art.netさんのアマゾンリンクからぜひどうぞ。

他に,建物資料や衣裳資料として素晴らしいのが,「源氏物語 六条院の生活 青幻舎刊」 3286円です。

 岡野玲子著のコミック「陰陽師」の1〜6巻までは,衣裳・建物・牛車などの時代考証が素晴らしく,本当に勉強になりますので,だまされたと思って読んでみてください。陰陽師は,映画のほうも,第1作がものすごく資料価値が高いです。陰陽師 [DVD]

渓流

 なお,関西の方は,京都市の西本願寺の近くにある「風俗博物館」へ行けば,入場料たったの400円だけで,実際に狩衣や十二単の一部を自由に着させてもらえて,平安貴族の屋敷のセットで勝手に写真撮影させてもらえます。必見です。公式サイトはこちらです。

 それ以外では,平安衣裳の通販サイトが参考になります。岡野玲子さんは,衣裳のシワとかをリアルに描くために,狩衣を1着持っていたそうです。代表的なサイトはコチラです
花魁の衣裳や髪型,平安時代の女性衣裳についても,そのうちご説明できればいいな,と思っています。
それでは,今後ともよろしくお願いいたします。

このイラスト講座は役立ちましたか?  CTぱちぱち。

着物の描き方1 | 着物の描き方2 | 日本髪の構造と飾り | ぺんたさんの絵師名簿


お絵かき掲示板Art.netイラスト講座>投稿イラスト講座vol.11『着物の描き方2』ぺんたさんの場合