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四方針守護士〜兵士と王女の物語〜【第三章】

6章 6頁 完結 「テキスト」

時の聖地、クロクラムへとやってきたエマル。
二人目の守護士、ジーク・ライドは自分の長年探してきた男だったが、彼は体の中に化物を宿していた。
大切な恩人が苦しむ中、エマルの取った行動とは……

作者. シロガマ さん


  連載No.000050 登録:2014/03/06 〜 更新:2014/03/10 (0 Res. ,)

第十八話 『討論』


エルさんは、普段は気のいい姉さんタイプ。なのだろうけど……

「あの、エルさん?」
私はオロオロと戸惑いながら彼女の名を呼んだ。
エ・「何だい!? 今忙しいんだ、後にしとくれ!」
エルさんは私に背を向けてイラつきながら答える。
――大事な存在の為には誰だって性格が変わるもの。しかも厄介な方向へ。―――私は今、それを実感した。
「そろそろ放してあげた方が……死んじゃうかも」
エ・「バカ言ってんじゃないよ、こんくらいで死なれてたまるかい!」
そう言ってエルさんはますます手に力を入れて相手の襟元を締め上げる。
[彼]はすでに抵抗をやめていた。というか、もうもがく力も無いと言うべきか。
エ・「だぁから!! ジークを助ける方法、なんかあるだろ!? 魔術に長けてるアンタならどうにか出来んじゃないのかい、レ二―!!」
エルさんは荒々しくレ二―君の体を揺さぶる。一方レ二―君はもうなるがままに揺さぶられ、その表情はもう勘弁してくれと言った感じになっていた――(汗)

〜それは数十分前の事〜

私達は六時の塔から、各塔に必ず備えられた転送陣で真反対の十二時の塔、正面へと渡った。ちなみに国を歩いて縦断すると、丸一日〜一日半近くはかかるそうだ。
門番達が仕事中のレ二―君に取り次ぐ前に、エルさんはドシドシと塔へ踏み込んで行った。もちろん門番さん達は一応止めに入ったけど……
エ・「アンタ達、アタシの邪魔をするってのかい?」
エルさんの迫力のある睨み一発で兵士達はすんなり彼女を通してしまった。固まってしまった兵士達に私は『ごめんなさい、すいませんっ!』と、謝りながら後に続いたのだった。
――そしてエルさんは迷うことなくレ二―君の執務室へと突っ走り、ノックもせずに怒鳴り込んだのだ。
エ・「邪魔するよレ二―!」
「……ここがレ二―君の仕事場?」
私もエルさんに続き、レ二―君のヘアに足を踏み入れた。薄暗い、明かりはろうそくのみで、周りは妙な文様が描かれた黒い布に覆われている。おまけに床にも大きな魔法陣が……本棚もあり、分厚目の本がいくつも入っている。その内容は大体察しがつく。いかにも魔術師の使う様なヘアだった。
レ・「おや、エルじゃないですか」
水晶球を覗き込んでいたレ二―君は、凄い勢いで怒鳴り込んで来たエルさんを見ても普段通りの態度だった。
レ・「エマルまで……何しに来たのです? 今は仕事中――」
エ・「そんな事はどうでもいいさね!」
レ二―君が座っていた仕事様の机をダンと叩くエルさん。はずみで置いてある水晶球が台座から少し動き、レ二―君が軽く手で押さえる。
レ・「守護士の言うセリフじゃありませんね。一体なん――」
グワシッ!!
レ・「!」
遠回しで皮肉屋のレ二―君と、率直で多少短気なエルさんでは相性が悪い。エルさんはレ二―君が喋っているにもかかわらず、襟を掴み、ずいっと引き寄せた。
エ・「アンタも知ってんだろ? ジークの事さ」
レ・「ああ……彼ならまだ意識が回復せずに牢獄の中に幽閉中で、安定するまでは当分は解放できませ――……」
私の前と言う事を思い出したレ二―君は、しまった、と言う表情で急いで言葉を切った。
レ・「……今のは、さすがに不謹慎でしたね。申し訳ありません、エマル」
エルさんから襟を放させると、レ二−君は素直に謝って来た。レ二―君、なんだか少し性格変わった様な?
「あ、ううん、私は大丈夫……」
レ・「―――ジークさんの事は僕もなんとかしたいとは思ってます。またいつ暴走するかもしれないですし……ですが今回の件ばかりは、僕ではどうしようも―――っ!?」
再びエルさんは乱暴にレ二―君の襟を掴み上げた。またですか。
「エ、エルさん〜〜」
エ・「やる前から何諦めてんだい! それでも先代に認められた守護士かい!!?」
レ・「簡単に言わないでください。魔術と言うのは、失敗すればどんな災いが返ってくるか分からな―――っ!?」
エ・「弱音なんか聞きたくないんだよ、ア、タ、シ、はぁ!!」
エルさんはブンブンとレ二―君の首元を揺すり始めた。
レ・「おぉ! 落ちっ! 着い、てっ! 僕のっ、話を!!」
凄い勢いでレ二―君の首がガクガクと揺れている。
「エ、エルさん、そんなにしたら――……」

ゴキッ!

「あっ」
今、彼の首からすごい音がしたような……
レ・「………」
それ以降、レ二―君は力無くぐったりと抵抗をやめてしまったという。(汗)
――――そして、現在に至る、と言う訳。
「エルさん! 一回離れましょう!!」
エ・「ちょいと、何すんだい!」
私は少し無理やりにエルさんとレ二―君を放らかした。女の私相手では、エルさんも乱暴的な事はしてこない。
レ・「く、首が、ゲホッ、折れたかと……」
顔をしかめて首をさするレ二―君。
「――あの、本当にレ二―君でもどうにも出来ないかな?」
レ・「……」
彼は落ち着くと再び椅子に座り、深いため息をついた。
レ・「残念ながら、魔術は全てにおいて万能などではないのですよ。それ相応の代償と言うモノが必要なんです」
エ・「じれったいねぇ! じゃあ何が必要なんだい!?」
レ・「つまりは、ジークさんの中に潜んでいる存在を消し去りたいと言う事ですよね? その為に必要な『餌』を分かりやすく例えるなら――」
―――レ二―君の顔が険しくなる。
「?」


『この国の民、全員の命』


「っ!?」
エ・「っ!?」
レ・「――全てを捧げても、足りるかどうか」
エ・「そ、そんなでたらめな話があるかい!! 高々鬼一匹だろ!?」
レ・「アナタは昨日の彼の姿を見ていないから分からないのですよ。彼が、どれだけ危険な存在を秘めているのか」
エ・「っ……」
レ・「彼の姿を真近で目にしたエマルなら分かるでしょう? 彼の恐ろしさを……」
レ二―君の鋭い目が、私に向けられる。私は何も言えずに黙り込んでしまった。
レ・「更に言うなら、昨日のあの状態でも鬼の力はまだ半分も解放されていなかった」
「そ、そんな!」
レ・「完全に力が解放されたら、被害はこの国だけでは収まりません」
―――昨日の姿が、不完全?
私は暴走状態のジークさんを思い出した。恐らくレ二―君も同じだったのだろう。彼の顔が恐怖を宿している。恐らく今の私もきっと、レ二―君と同じ顔をしているんだと思う。
レ・「悔しいですが、あれほどの力を僕ごときでは消し去りきれない。それに失敗すれば、主体であるジークさんの体にどんな影響を及ぼすか分かりません」
エ・「じゃあどうすればいいんだい!!」
「消滅させられないなら、せめてジークさんの体から鬼を引き剥がすというのは?」
レ・「事実上、儀式を行う事は可能ですが、やはりジークさんの体への影響を考えると……彼の体、もしくは精神が鬼の術への反発力に耐え切れずに崩壊する可能性があります。抵抗されればされるほど、体への負担は大きくなりますからね」
エ・「それじゃあ打つ手無しじゃないか!!」
エルさんが荒々しく机を叩く。一方レ二―君は、静かにモノクルを上げると
レ・「――今の彼の状態から推測するに、もし再びジークさんが鬼人化したら……恐らく、もう……」
「……」
言葉を濁すレ二―君に、私とエルさんは顔を強張らせる。私達の間にピリピリした重苦しい空気が漂いはじめた。
エ・「――もう? もう何さ。はっきり言いなレ二―!」
「エルさんっ」
レ二―君は苦渋の表情でエルさんから目を反らす。
レ・「彼の意に反する破壊行為を行わせるぐらいなら……いっそ、国王様に彼の時間を止めてもらった方が―――――っ!!」
ガタンッ!!
エルさんの手が強引にレ二―君を引き寄せ、椅子が大きな音を出した。先ほどとは違い、本気でレ二―君を締め上げている。今にも本気で殴り掛かりそうな感じだった。
「エルさん!」
レ・「っ……」
エルさんを止めようとして腕を掴むが、その手はびくともせずに彼を締め上げ続ける。
エ・「アンタ、本気で言ってんのかい……」
レ・「冗談でっ、こんな事言えませんよっ」
エ・「っ! そんな簡単に切り捨てられるのかい――み損なったよレ――」
レ・「簡単な訳ないでしょう!!? 僕だって必死に方法を探したんだ!!」
エルさんに負けじとレ二―君も声を荒げた。私は言葉も出ずに二人のやり取りをみる事しか出来なかった。
(こんな、こんな事になるなんて……)
レ・「僕だって助けられるものなら禁術を行ってでも助けたいですよ! それにしても生贄は必要なんです! 貴女なら出来ますか!? ジークさん一人の為に、数万、数億の民達を犠牲にする事がっ!!」
エ・「っ……」
エルの腕の力が少し弱まった。
レ・「――それに僕には、ジークさんがそれを望んでいるとはどうしても思えないんですよ」
その言葉に、エルさんの手は完全に力を失い、レ二―君を放した。
エ・「――どうすればいいんだい。このままじゃあ……」
私は急に弱気になるエルさんの肩に手を置いたが、何を言ったらいいかも分からなかった。レ二―君も悔しそうな顔でうつむいている。
どうすればいいの? 消滅させるのも無理。鬼を体から引き剥がすのも不可能。このままではジークさんが―――――本当に、彼の時を絶つしか道はないの?
?――――――待って。もしかして……


鬼がジークさんの体を欲しがり、体に留まろうとする。――だとすれば……ジークさん本人は……?


「レ二―君、エルさん!」
エ・「?」
レ・「どうしたんです?」
私の呼び声に二人が同時にこちらを向く。
「鬼を引き剥がす事が不可能なら―――」
―――――私は今考えついた事を二人に説明した。
説明し終えたあと、エルさんは顔をしかめる。
エ・「そんな事しても、結局は同じ事なんじゃあ」
「……レ二―君はどう思う?」
レ・「……」
レ二―君は私の【考え】について考え込んでいる。私は彼の答えを待った。この手の事に関しては、レ二―君の方が詳しいはずだから。
レ・「なるほど、確かに【その方法】なら、彼自身にはさほど影響はないかもしれませんね」
「本当!?」
レ・「ええ、もちろん確信までとは行きませんが、あくまでも鬼にとっては【体】を手にする事が最も重要なはずです。なら、【ジークさん】の存在は鬼にとっても邪魔なはず。向こうにとっても好都合のはずですよ」
エ・「ほんとかい!?」
私とエルさんの表情がパァッと明るくなった。
レ・「となると必要なのは『器』……つまり体ですね。空の入れ物を作る程度なら、僕の力だけで十分可能です。―――――――いけるかもしれませんね」
「っ!?」
私は彼の話に反応し、同時に思いだした。そうだ、死んでもいない者を新たな肉体に変える。つまりこれは―――
「レ二―君、この方法って……」
レ・「ええ【転生】ですよ」
「転生……」
そうだった。転生術は、この国にとって……
私の顔を見て、レ二―君が珍しく苦笑する。
レ・「そんな顔せずとも大丈夫ですよ。あの鳥【七色聖鳥】の時は、時間が無かったせいで体を一から全て転生し直しましたが、今回は辛うじて器【体】を用意する有余があります。寿命を差し出す必要はありません」
そうじゃない、そうじゃなくて!!
エ・「転生って確か、我が国と協定を結んだ【輪廻転生を司る国】によって禁止されてる術じゃないのかい?」
そう、転生術は同盟を組む条件として、堅く禁止されたこの国にとっての禁術。術によって無理やり生み出される新たな存在は、自然な転生を司る国にとってはあってはならない存在だから。
エ・「そんな事をしたら、アンタは重罪人として国王様からどんな処罰が下されるか!」
レ・「何を悠長な事を言っているのです? 可能性があるならやるべきでしょう?」
「――レ二―君」
レ二―君も、やっぱり真剣にジークさんの事を想ってくれているんだ。
エ・「だが、それは……」
このまま何もしなければジークさんが危ない。ジークさんを救えば、レ二―君が重罪人にされてしまう。さすがに二度めの禁術は【あの人】も許してはくれないだろう……
――――私はある決断をした。ジークさんを助け、レ二―君も裁かせはしない。二人とも助ける為にはこれしかない。
「――二人とも、城へ行きましょう」
エ・「エマル?」
レ・「?」
「説明する前に、これからの事を国王様にもお話する必要があります」
私は二人の手を取った。
二人「これからの事?」

正直、これからが大変だが、二人の為ならそんな事は関係ない。やっと見えて来た光なんだから!


〜つづく〜

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