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四方針守護士〜兵士と王女の物語〜【第三章】

6章 6頁 完結 「テキスト」

時の聖地、クロクラムへとやってきたエマル。
二人目の守護士、ジーク・ライドは自分の長年探してきた男だったが、彼は体の中に化物を宿していた。
大切な恩人が苦しむ中、エマルの取った行動とは……

作者. シロガマ さん


  連載No.000050 登録:2014/03/06 〜 更新:2014/03/10 (0 Res. ,)

第二十話『素性』


明日の朝、私は自分の国へ一時帰国する事が決まった。
【転生術は決して行ってはならない】私の国が他国との同盟を組む条件として定めた条約。我が国では転生術と言う自然に反した行いを決して許さない。
だが鬼化が進んでいくジークさんを救うためにはもう転生を行うほか道はない。だから私から直接母に許可を得ようと考えたのだ。許可さえ得られれば、ジークさんを助け、レ二―君も罰せられずにすむから……

コツコツコツ……
国王様への報告も無事に終え、私は自分のヘア【客室】への渡り廊下を歩いていた。
「……」
―――落ち着かない。
私はちらりと後ろの二人に視線を向けた。
レ・「……」
エ・「……」
エルさんとレ二―君の二人は、無言で私の後ろを歩いている。私をヘアへ送る様にと、国王様に申しつけられたからだけど……二人は謁見の間を出た時からなんだかいつもと違い、そわそわと落ち着きが無い感じだった。城へ行くまでは横一列だったのが、今は二人共私の後ろ……
―――仕方が無かったとは言え、やはり王女と言う事は伏せておきたかったな。
そもそも、変な特別扱いはされたくない。今の今まで友達の様に接してきたのに、急に距離が遠くなった様に思えて来てしまう。
コツコツコツコツ……
「……」
スタスタスタスタ……
レ・エ・「……」
コツンッ!
しばらく我慢して歩き続けたが、とうとう沈黙に耐えられなくなった私はピタッと脚を止めた。途端に後ろの二人も足を止める。
「ふぅ」
私は鼻で小さくため息をつき、勢いよく後ろへ振り返った。

「やめてください!」 エマルが叫び……
「あぁー! やめたやめた!」 エルが頭を掻く。
「やめましょう」 レ二―が静かに呟く。

「――え?」
呆気に取られる私に、エルさんが手をぷらぷらと振った。
エ・「やっぱ無理だねぇ。王女様だか女王様だか知らないけど、今までが今までだったんだ、突然態度を変えろって言っても無理な話さね。なぁ、レ二―?」
――え?
レ・「確かに貴女が次期女王と聞いた時は驚きましたが、僕もエルと同意見です。今更、ですね」
レ二―君がいつもの癖のごとくモノクルを上げる。
「二人とも……」
エ・「いつも通りでいいだろ? それとも、改めて【セリス王女】って呼んだ方がいいのかい?」
「そんな、やめてくださいよ」
二人も同じ事を考えていてくれた事に、私は嬉しくなった。
レ・「それではなんだかしっくりきませんね。第一、今の【エマル】には王女としての気品と風格が足りません」
エ・「ははっ! 確かに、王女にしてはお転婆そうだしねぇ? エマル?」
二人の視線が同時に私に向けられる。
「……あはは」
それはそれでなんだか喜べないのだけれど?

・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・

ヘアまで戻ってくると、私は二人の方へ向き直った。
「お二人とも、送っていただきありがとうございました。私のヘアで一休みして行きませんか?」
レ・「いえ、僕は塔に戻ってジークさんの器作りの準備に取り掛かります」
「あ、私も何か手伝える事があれば……」
レ・「いえ、貴女は明日の為に、今はお休みになった方がいいでしょう。また明日、謁見の間でお会いしましょう」
「そっか………じゃあまた明日ね」
エ・「アタシは折角だから御厄介になるよ。アンタの手伝いって言ったって、アタシじゃ邪魔になるだけさね」
レ・「おや、分かってるじゃないですか、エル」
彼は早々と私達に背をむけ、元来た廊下を再び歩き出した。
レ・「――エマル」
――が、数歩歩くと突然彼は足を止め私の方を振り返った。
「? どうしたの?」
レ・「その、言い忘れてました」
「?」
レ・「あの時は、ありがとうございました」
「あの時? どうしたの? いきなり」
レ・「貴女なのでしょう?【七色聖鳥の件】で、僕のお咎めを軽くしてくれたのは」
何とも言いづらそうに目を泳がせている。そう言えば、そんな事もあったっけ。
「私は別になにも……」
レ・「隠しても無駄ですよ。鳥の命と言えど、転生術を行い他国との協定を破った僕がどうしてあれだけの事でお許しを頂けたのか、これでようやく謎が解けましたよ。貴女が国王様にお口添えなさってくれたのでしょう?」
「あれは、ただ私があの鳥をあのまま放っておけなかったから。レ二―君には無理をさせちゃって……なんだか逆にこっちが申し訳ないくらいだよ」
レ・「ふっ、どうやら貴女のバカが付くほどのお人好しが移ってしまった様です」
レ二―君が私に向かって小さく笑った。今までの皮肉交じりの笑顔ではない、本当の笑顔はこれで二度目だった。彼の笑顔に私も自然と笑顔になる。
「もうレ二―君! バカは余計だよ?」
―――と、その時。
エ・「なんだいなんだい、随分とエマルには優しいじゃないかレ二―?」
エルさんがニヤニヤ顔でレ二―君をからかい出したのだ。
レ・「は?」
レ二―は本来冗談が嫌いな人種で、こう言ったデリカシーの無い冗談は最も嫌いな部類に入る。普段は何倍もの嫌味が返ってきてもおかしくはない事。エル自身それはよく知っていてからかったのだが、今回は何か違がった。
レ・「――僕は別に、そんなつもりは……」
エ・「あら?」
「?」
思ってのほか、レ二―の言い返しが小さかった事にエルは驚いてしまった。
エ・「どうしたレ二―? いつもなら【どこかのふしだら剣士と一緒にしないでください。非常に不愉快です】ぐらいの事はいうだろうが?」
エルさんは目を吊り上げてレ二―君のまねをする。あまり似て無いところがおかしい。
レ・「い、いいでしょうそんな事は。ただお礼を言っているだけですよ」
エ・「ふーん、アンタが他人にお礼ねぇ……」
レ・「っ――何ですか、さっきから」
いい加減イラついて来た様でレ二―君の目が吊り上がる。一方エルさんはニヤニヤしながらレ二―君に近寄り、彼の肩に腕をまわすと私に背を向けた。
「?」
私に聞こえない様にヒソヒソ声で話す二人。
エ・「アンタ、あの子と何かあったのかい?」
レ・「は? 何を勘違いしているのです。何もあるわけ無いじゃないですか」
エ・「隠さなくてもいいじゃないかい。今日のアンタはヤケに初々しいねぇ♪」
レ・「い、いい加減にしてください! 忙しいと言っているのに、くだらない事で呼び止めないで頂きたい! とにかく、お礼はちゃんと言いましたのでこれで失礼します!」
彼はエルさんの手を振り払うと足早に自分の塔へと帰って行った。訳も分からずに呆気に取られてレ二―君を見送っていた私。
エ・「こいつは驚いたねぇ、あのレ二―が……」
「レ二―君、熱でもあったんですかね? 顔が赤かったですよ?」
エ・「は?」
私の一言にエルさんが目を丸くした。
エ・(……この子。あのレ二―の反応を見て気がつかないのかい!?)
「?」

・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・

エ・「――だけどほんと、これはとんでもない事だよ」
私のヘアのソファーにボフッと腰を下ろし、エルさんは足を組みながら身を寄りかからせる。
「レ二―君の事ですか? お礼一つでそんな大げさな」
笑いながら私も向かいのソファーに座るが、エルさんの表情は真剣だった。
エ・「いや、大袈裟なんかじゃないよ。こう見えてこっちは本気で驚いちまった」
「……」
そんなにレ二―君って笑わないんだ? ……確かに、私も出会ったばかりの時は酷い事言われたっけ。少しは考えろとか、私の相手をおもりだとか……そう考えると今のレ二―君は確かに少し……かなり? 変わった気もする。
エ・「あいつはさ、全ての事に何かしら嫌味を加えないと気が済まないタチなんだ。褒めたところで何故だか倍の愚痴が返ってくる。礼なんてもっての他さ! だから誰もアイツに近づこうとはしないんだよ」
「そこまで酷いとは思いませんでしたけど……」
エ・「それにアイツ、仕事以外は私利私欲でしか魔術を使わないんだ。自分が欲しいから、こうすればどうなるか知りたいから。その為なら多少の犠牲なんて関係ないって感じでさ。結構傷つけられた者も多いんだよ」
エルさんは鼻でため息を付く。そんなに酷い性格していたんだ。レ二―君て……
エ・「正直、アタシとデルタは当時あいつを守護士にする事に反対していたんだ。でもジークだけは賛成してね。その後ジークがアイツを更生したみたいで、それからはまぁ、皮肉だけは相変わらずだけど、むやみに生きものを傷つけなくなったんだ」
(――面倒見の良いジークさんらしいなぁ)
エ・「そのアイツがあんな人間らしい顔を出来るってのも驚いたけどね。……一番驚いたのは、アタシがレ二―に掴みかかった時のあの言葉さ」

レ・【簡単な訳ないでしょう!? 僕だって必死に方法を探したんだ!】
レ・【僕だって助けられるものなら禁術を行ってでも助けたいですよ!!】
レ・【僕には、ジークさんがそれを望んでいるとはどうしても思えないんです】
レ・【可能性があるならやるべきでしょう?】

エ・「何を言ってもサラッと受け流すアイツがあんな風に返してきたのは初めてさね」
「……そう思うと、確かに彼変わりましたね」
エ・「――おいおい」
エルさんが呆れたような顔で寄りかかった身をこちらへ戻し、ずずいと顔を近づけてきた。
エ・「ちょいと。随分と人事じゃないかい?」
「え? どうしてですか?」
エ・「……」
この子……レ二―をあそこまで変えたきっかけが自分だって事に気が付いてないのかい?
エ・「罪づくりな女だねぇアンタ」
と、ぼそりと彼女は呟く。その言葉の意味が私には分からない。
(変なエルさん……)
エ・「ま、いいけどさ――――ところで、話は変わるんだけど、聞いていいかい?」
「? 構いませんが?」
エ・「アンタが国に帰って女王様の許可を得て来るってのはいいんだけどね。国王様はこう仰ってただろ?」

国王・【今君を国に返すというのも、危険すぎる】

エ・「あの言葉がどうも引っかかるんだ。自分の国だってのに、何がそんなに危険なんだい?」
「あ」
エルさんの疑問も最もだ。私の素性は国王様にお願いして全て伏せてもらっていたのだから。
「そうですね、この事は国王様だけしかご存じではなかったんですよね」
私が王女とばれてしまったからには、黙っている必要ももう無い。私は素直に全て打ち明ける事にした。
「分かりやすい様に最初からお話しますね。私が次期流転国の女王になる事は先ほど国王様から話されましたね? 実は、流転国は新たな女王が誕生する今の時期が一番危険なんです」
エ・「? どういう事だい?」
「文字通り、我が国は輪廻転生を司っています。亡くなった方の魂に生まれ変わる権利を与え、新たな肉体を授け再び現世に解き放ち赤ん坊という形から新たな人生を与える。それが転生の女王の役割。――ですが、時には転生の権利を与えられない程の凶悪な魂もやって来ます。もちろんその魂達は転生されず、永遠の苦痛を与えられると言われている、いわば(地獄)へと送られるのです」
エルさんはフムフムと納得しながら私の話を聞いている。
「ですが、中にはその審判から逃れて現世に留まる魂もいるんです。彼等は悪の魂。破壊と殺戮を好み、生きた人間の体を奪おうとする。それが【影】の正体……」
エ・「なるほど。元人間の成れの果てってやつかい」
「そして彼等が現世に留まっている一番の目的が、【流転国女王の命を奪う事】なんです」
エ・「そいつは穏やかじゃないねぇ」
「転生の女王がいなくなれば司る力も歪み、善悪無差別に蘇る事が出来る様になってしまう。悪の生まれ変わりは、少なからず悪を宿して生まれて来るから……奴等は今も、どこかで群れを成し私達を狙ってるはずです……」
エ・「また同じ事を繰り返そうってのかい? 馬鹿の一つ覚えってやつだねぇ。――で、アンタを襲って来たその影ってのが昨日の……」
「はい」
エ・「なるほどね、今の話で読めたよ」
「え?」
エ・「つまりこうだろ? アンタが次期女王になる今の時期、最も奴らの動きが活発になる。で、狙われるのはもちろん次期女王で、まだ力を持たない最弱のアンタだ。だから、お人好しの我が国王様がこの時期だけアンタをこの国にかくまう事にした。って感じかい?」
「は、はい」
エ・「この国ならアタシ等守護士がいる。エスコートとか何とか言って、本当はアンタの護衛が重要目的だったって事かい。なるほどねぇ。国王が言っていた、この任務を失敗したら人類の危機ってのもこれで納得いったよ。――全く、国王様ってばよく言うねぇ」
彼女は呆れがちに鼻で笑う。
エ・「身分を隠していたのは?」
「王女と言う身分を隠していたのは私の希望だったんです。上も下も無い、普通の人としての扱いを受けたかったから……本当は護衛してもらう立場だったので、本当の事を話す気ではいたんですけど、国王様が【君が望むなら】って……」
エ・「国王が?」
「私も、まさかここまで大事になるとは予測できなくて……」
エ・「ま、そうだな。アンタのせいじゃないさ」
「そう言う事で、今国では兵士達により、集まって来た影を討伐する期間中なんです」
エ・「今後の為にもアンタは絶対に死ねないからねぇ。確かに落ち着くまでは帰らない方がいいか」
「……エルさん」
私は再び姿勢を正してエルさんに向き直る。
エ・「? 何だい、改まって」
「こんな事言うのも心苦しいですが、私と一緒に国へ来てはくれませんか?」
エ・「へぇ、アタシをご指名とはお目が高いじゃないか」
エルさんが鼻高々に笑う。
「じゃあ!?」
私は身を乗り出す。―――だけど
エ・「残念、アタシはパスだ」
「え?」
エ・「おっと、勘違いすんじゃないよ? アタシより【護衛に向いた奴がいる】って事さ」
「?――レ二―君ですか?」
エ・「違う。あいつも強いけど、遠距離型の援護タイプだからね。護衛には不向きさ」
「じゃあ……」
エ・「四方針守護士の中で、まだ会って無いのが一人いるだろ?」
会っていない守護士様? えと、レ二―君が十二時。ジークさんが三時。エルさんが六時。となると残ったのは……
エ・「実力はアタシに劣らずだからね。現時点での護衛としては一番適役さ」
「エルさんがそう言うなら安心出来ます」
同じ守護士であり、エルさんが推薦するほどだから、私の不安は一気に薄れた。
エ・「――まァ、性格に少々問題もあるんだけどね」
安心する私をよそに、最後の言葉は私に聞こえない程に小さく呟かれたのだった。


〜つづく〜

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