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四方針守護士〜兵士と王女の物語〜【第三章】

6章 6頁 完結 「テキスト」

時の聖地、クロクラムへとやってきたエマル。
二人目の守護士、ジーク・ライドは自分の長年探してきた男だったが、彼は体の中に化物を宿していた。
大切な恩人が苦しむ中、エマルの取った行動とは……

作者. シロガマ さん


  連載No.000050 登録:2014/03/06 〜 更新:2014/03/10 (0 Res. ,)

第二十一話 『エルの心』



チッチッチッチッチッ……

「……」
時は12時を回ろうとしている。柱時計の音のみがヘアに響く中、私はベッドに横になり、天井を見上げていた。
≪――この国で転生を行うために明日私は国へ戻る――≫
ただでさえ禁術を行いたいと申し出るのに、直接助けてとまではとても言えない。色々と不安な所があるが、そんな事は言ってられない。
「――絶対に説得しなくちゃ」
私は一人ポツリと呟いた。
母も必ず分かってくれるはず。ジークさんは、私達親子の溝を埋めてくれた人なんだから……
「――――――ふぅ」
彼を助けるという意気込みと同時に、気の重さも少し感じていた。ジークさんの件は関係なく、個人的に今国に帰る事に多少の抵抗があった。
「【彼】と顔を合わせない訳にもいかないだろうなぁ」
私の脳裏には一人の男の姿が浮かんだ。
―――幼馴染の剣士。
正直、今はまだ彼とは顔を会わせたくなかった。でもこの事態に彼無くして話は進まないだろうし……
「っ! ダメダメッ余計な事は考えない!!」
ブンブンと首を振り、私はもう一度ため息をついた。
「……」
次第にウトウトしだす私。意気込んでいても、眠気は襲ってくる。――――ジークさん、大丈夫かな……
私は静かに瞳を閉じ、眠りへと落ちて行った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

エ・「……」
デ・「……」
その頃、九時の守護士、デルタはエルを前に顔を引きつらせていた。二人が顔を合わせたのは偶然だったのだが、なぜだろうか、エルの顔が……
デ・「おいエル。顔を合わせて早々【その顔】はあんまりじゃない?」
エ・「……放っておいとくれ」
エルはいかにも不機嫌という顔で「ふん」と目を背ける。口調も明らかにイラついている。おいおい、俺何かしたか?
最近の彼女への態度と言動を思い出してみたが、これと言って癇に障る様な事をした記憶はない。
エ・「アンタはこの下に何か様でもあるのかい?」
彼女は親指で二人の横にある【独房へ下りる階段への入り口】を指さした。
デ・「状況把握の為さ。俺、今日は任務で駆り出されてたからな」
エ・「ああ、他国からの兵士増援の依頼かぃ。ごくろうさん」
そんなぶっきらぼうな。全然御苦労さまって顔じゃないぞ?
デ・「まぁいい。それより昼間の事を教えてくれよ。何か進展はあったのか?」
エ・「――まぁね」
それだけ言うと、エルは早々に階段を下りて行く。デルタは肩をすくめ、その後に続いた。

・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・

螺旋階段は肌寒く、二人の足音だけが静かに響き渡る。長い長い最下層への階段。エルは階段を降りながらデルタに手短に今日の事を説明した。
ジークが次に鬼化したらもう戻らないという可能性。助けるためには転生を行う必要がる事。転生を行う為にはエマルの母君の許可が必要な事。そのために明日、エマルが一時帰国する事。
その話に色々と反応を示していたデルタだったが、彼が最も反応したのは……
デ・「……酷いよエマちゃん。君が流転国の王女様だったなんて……どうして俺のいない間に告白しちゃうのさ! 俺達っ、俺達運命の出会いもまだなんだぞぉ!!」
まるでミュージカルのごとく、デルタは宙に向かって腕を開き、嘆き叫んだ。
エ・「うるさい!!」
ゴッ!
デ・「ぶっ!」
エルの拳がボカッとデルタの顔面を見事にヒットした。フラついたもののなんとか倒れるのはこらえ、鼻先をさするデルタ。
デ・「ててっ、そう怒りなさんな。可愛い眉間に皺が寄ってるぞ?」
エ・「……」
ぼきっ!
「うっ、悪かったって……」
エルが無言でボキリと指を鳴らすと、彼もさすがに大人しく謝った。
デ・「しかし、なるほどなぁ。弱っている旦那の方ならあっさり魂を引き剥がせるし、体への負担も軽い訳だな? 逆転の発想ってやつだ、考えたなエマちゃん」
デルタはあごに手を当て、うんうんと頷いた。

・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・

ゴゴゴゴゴゴゴ……
最下層に下り、牢獄に近づくにつれて肌に突き刺すような殺気をビリビリと感じる様になってきた。見えないどす黒い気が地下全体を覆い、自分の体を取り巻いている。
エ・「っ……」
背筋が凍りつく。謁見の間で受けた殺気とは比べ物にならず、正直青ざめる程だった。無意識に自分の腕を抱いてしまう。この殺気を発しているのがジークだなんて、まだ信じられない。
ギュッと腕を抱く手に力が入った。
デ・「大丈夫か? 顔色が悪いぞ?」
エ・「あ、ああ、大丈夫さ――――」
エルは自分の横を歩いていた彼をチラ見した。デルタはこの気をどう感じてるんだろうね。
デ・「……」
デルタは全く顔色を変えていない。―――いや、さっきまでのおどけた顔が真顔になってる。少なからず、デルタもこの殺気を意識している証拠だ。
エ・「……」

エマル・【鬼化を知った上で、ジークさんをどう思いますか?】

【アタシが今まで見てきた彼が、本当の彼。結局、なんも変わらないって事だな】

エ・(あの時アタシはそう言った。エマルには偉そうなこと言っといて、いざ目の前にするとこの様かい。……情けない)
エルは自分の、腕を摩る姿を見て怒りに下唇をぐっと噛みしめた。
デ・「――それが普通の反応じゃねぇの?」
エ・「!」
デ・「この空気に怖がらねぇ方が異常だろ、恥じる事はねぇぜ?」
――コイツッ!
今、自分は【ジークに対して恐怖している】という図星をさされた。
デルタは、エルがジークに好意を寄せている事を知っている。その自分が想い人に恐怖しているなんて、プライドの高いエル自身認めたくないと思っている事を彼は理解していた。
デ・「認めたくないのは分かっけど、俺だって怖えぇんだ。こう見えて逃げ出したいくらいなんだぜ?」
エ・「……ふん。アンタは普段から公務サボって逃げてばっかりだろうが」
デ・「おうよ! どっちかというと、サボってるのがバレちまった時の旦那の顔の方が、俺には怖えぇ」
思い出したように身を震わすデルタに、エルは鼻で笑った。
エ・「アンタらしいねぇ、ほんと」
そんなデルタに呆れる反面、内心、ほんのわずかだがどこか気が晴れた気もした。認めたくない部分を他人に見抜かれては、自分がそれを受け入れない訳にはいかない。そうなると、逆に少しすっきりする。
デ・「――ん?」
彼の視線が前に向けられた。見ると薄暗い廊下の向こうからレ二―が歩いて来るのが見えた。向こうもこちらに気づく。
レ・「おや、これは珍しい組み合わせですね」
デ・「ようレ二―。旦那を転生すんだってな」
レ・「エルから聞きましたか。――ええ、今回はその為に必要なジークさんの細胞を取りに来たのですよ」
エ・「細胞?」
デ・「ああ、爪や髪、体液とかそういうやつだろ?」
レ・「ええ、無くても不可能ではありませんが、あった方が魂を体に引き寄せやすく、新たな肉体に定着しやすいですからね」
そう言って一つの小瓶を二人に見せた。液体が入っている。
エ・「血」
レ・「そうです。爪や髪の毛よりも体液が最も効果が高い」
デ・「おうおう、頼もしいねぇ♪ お前がやんるだ、もちろん成功すんだろ?」
レ・「ふん、誰がやると思っているのですか?」
と、レ二―はモノクルを上げる。
デ・「お〜〜。その可愛気のない仕草も、今度ばかりは頼もしく思えるぜ」
エ・「全くだね」
デ・「ところで、その血はどこから抜いたんだ?」
レ・「ええ、喉元をスパッと――」
二人・「―――は!?」
レ二―の返答に二人は青ざめた。
レ・「冗談です」
二人・「っ……」
何とも涼しい顔でキツイ冗談を言うレ二―に、二人は顔を引きつらせる。
デ・「おっおおぉぉっお前っ! 二度とそんな冗談をっ……いや、お前は金輪際冗談自体言うな! お前の冗談は寿命を縮める!」
レ・「ダメですか? 僕の初めての冗談。皆さんを見習ったのですが……」
デ・「――恐ろしい。冗談慣れしない奴の冗談がこれほど恐ろしいとは!」
エ・「……」
二人の漫才みたいなやり取りを前に苦笑していたエルだが、その表情はすぐにまたイラつきを宿していった。

数分後……

レ・「それでは、僕は急ぎますので先に失礼します」
デ・「早速戻って体作りか?」
レ・「ええ。ちなみに面会はまだ無理ですので、気を掻き乱さない様、騒ぎ立てないでくださいよ?」
それだけ言うと、レ二―は二人が来た廊下を歩いて行った。
エ・「……」
デ・「まだ無理か……行っても入れねぇんじゃ意味ねぇし、俺も引き上げっかな」
と、デルタが頭を掻いてると……
エ・「デルタ」
デ・「ん?」
エルの方を向くと、彼女も真剣な顔でこちらを振り向く。
エ・「明日、エマルが国に一時帰国する事は言ったね?」
デ・「ああ」
エ・「彼女の警護、アンタに任せるよ」
デ・「? なんだそんな事。あったりまえだろ? お前に言われなくとも、この俺がきっちりガードさせてもらうぜ? 女の子をお守りするのは、ナイトの役目ってな♪」
エ・「ああ、女の子が相手なら、アンタもサボろうとはしないだろうしねぇ」
デ・「女の子限定かい。――ま、その通りだけどな」
エルはやる気満々のデルタに歩み寄ると
エ・「あの子の生死だけじゃない、ジークの命も、アンタの護衛次第なんだ。気ぃ抜くんじゃないよ!?」
パァン!!
勢いよく、エルの手がデルタの背中を引っ叩いた。エルの力にデルタの顔が歪む。
デ・「って!! 〜〜〜〜〜っ あ、ああ、大丈夫だって。――――――あ?」
涙目で背中をさすっていると、エルは再び牢獄へと歩いてく。
デ・「おい、帰んないのか?」
エ・「アタシは……一応ジークのところへ寄ってくよ」
デ・「そうか? じゃあ、俺は帰るぜ?」
エルは黙って手を振ると背を向けて歩いて行った。
デ・「……」

・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・

ジークの幽閉されている独房前に来ると、より一層殺気は強まって行く。エルは扉の前まで来ると、しばらく何もせずに立ち尽くした。
エ・「……」
先ほどからイライラが収まらない。だがそれは誰かに対してという訳ではない。
エ・(エマルは禁術を行う為の交渉を、レ二―には禁術を任せて、その上彼女の護衛はデルタに……)
自分は成す術(すべ)が見つからずに焦る一方で、その上レ二―に当たり散らすだけだった。護衛なら自分にだって出来る。だがエマルの交渉を前に、自分はまた私情をはさんで波風を立ててしまうかもしれない。今回の事に、平常心でいられる自信がない。
自分には何も出来る事が何も無い。……なにも。―――こんなに自分が無力と感じた事はなかった。それを実感した時、自分に対してやり場の無い怒りと悔しさに打ちひしがれた。
エ・「………」
大きなため息を付くと、エルは独房の扉に静かに額を付け、扉の向こうの存在を感じた。
エ・「アナタを救いたい気持ちは、アタシだって負けないさ。……ジーク」
デ・「………」
エルのその一言を、曲がり角の影で腕組をしながら聞いていた彼。
デ・(なるほど、な。ずっとイラついてたのはそういう訳か……)
デルタは気づかれない様、気配を消してそっとその場から離れた。
デ・「普段もあれぐらい可愛気あればなぁ、もう一回アタックしちゃうのに」
やれやれと言った表情で歩いていたが、次第にデルタは優しい目で笑う。
デ・「こいつは責任重大。本気でかかんねぇと。――なぁ? 旦那」

―――そうして、それぞれの夜が過ぎ、エマルは帰国の朝を迎えるのだった。


〜つづく〜





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