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四方針守護士〜兵士と王女の物語〜【第四章】

16章 22頁 完結 「テキスト」

クロクラム国で偶然再会した幼き頃の恩人、ジーク・ライド……彼は体に化物を宿していた。彼を助ける手段は彼の魂を体から引き剥がし新たな肉体へと移し替える事。だが転生術はクロクラム国の同盟国である【流転国】により固く禁じられていた。
そして流転国はエマルの祖国。エマルは転生許可を母から得る為に一時帰国を決意するが……

作者. シロガマ さん


  連載No.000051 登録:2014/03/12 〜 更新:2014/04/17 (0 Res. ,)

第二十二話 『それぞれの覚悟』



チュンチュン……

「………………」
鳥たちの声が耳に入ってくる。男はその鳴き声をしばらく黙って聞いていた。
次第に鉄格子の付いた小窓から光が差し込まれ、男の体を照らし出す。エマルの伝言を聞いたあの日から【彼】の目が久しぶりに開かれた。
ジ・(朝、か…………?)
最初に視界にとらえたのは自分の脚。だが彼はそれが自分の膝だという事に数秒間気がつかなかった。ここ数日間、呑まず食わずで繋がれ続けた状態、加えて自分の意識はその数日間途絶えていた為、自分がかなりやせ細ってしまった事に気づかなかったのだ。
まいったな。これは元の体力を取り戻すに時間が掛かりそうだ。――俺が拘束されたあの日から、一体何日が過ぎたんだ? 国の状況は、俺の部下達は? 国王、他のみんなは? ――何も分からん。
ジ・「……誰か、居ない、のか?」
ダメ元で人を呼んでみた。久しぶりに出した声は力が無く、かすれてしまっていた。――やはり反応はない。人の気配も感じられない。当然か。恐らく国王から近づかない様に言い渡されているはずだ。
ジ・「……」
ギシッ――――今度は腕を動かしてみた。自分の力で引き千切れるものならそうしていたが、光る鎖は更にきつく締まり、それと同時に力も抜けて行ってしまう。
……これはレ二―の拘束術か。いや、レ二―の作り出したこの錠じゃなくとも、この痩せ細った体では結果は同じだな……全く力が入らん。
ジークは錠を壊すのを諦め、目を閉じて精神を集中させた。
ジ・「……………よし」
体の内側から漏れだしてくる殺気がかなり弱まっている。頭の痛みも軽い。油断はできないが、とりあえず状態は落ち着いているようだ。
ジ・「……」
だが、ジークの気が晴れる事は無かった。時間が経つにつれて徐々に再会の湖での記憶がはっきりしてきたのだ。

――また、押さえ切れなかった――

ジ・「くっ……」
鬼人化した時の自分を見るアイツの恐怖した顔……俺を見て震えるあの姿……あの時はどうしようもない状況だった。そんな事は分かっていた。分かってはいたが、しかし……
ジ・(アイツにだけは、あの姿をっ……)
ジークは辛い表情でうつむく。何より恐れていた事が起こってしまったのだ。落ち込むのも無理は無い。
――もう、俺にあの無邪気な笑顔を向けてくれるエマルは居ないのかも知れない。伝言で約束の事を言ってはいたが、あれは彼女の強がりなのかも知れない。不完全だったとはいえあの姿を間近で見たんだ……俺への恐怖をそんな簡単に克服出来るはずもない。――――だが……
彼は静かに頭を振り、口の端を吊り上げた。
ジ・(――覚悟を決めていたはずだ)
次にエマルと顔を合わした時、たとえ彼女が自分を見て恐怖しようと後悔はしないと。
?・「――久しぶりだね」
ジ・「!」
顔を上げると、いつの間にか正面に国王が笑顔で立っていた。
国王・「やぁ♪」
ジ・「国王……」
その幼い笑顔がひどく久しぶりな気がする。
国王・「目覚めた様だね。体からの一時的な殺気の放出が治まったから様子を見に来たんだ」
そう言うと国王はジークの顔を覗きこむ。
国王・「うーん……」
体から殺気が引いて角も牙も完璧に消えている。ジークの体力が低下しているからだろうか……
国王・「うん、大分落ち着いて来たね。安心したよ」
ジ・「国王様、俺はあれからどのくらい――」
国王・「君をここへ繋いだ日から、もう【五日】が経ったよ」
ジ・「五日、ですか……症状が引くまで随分と時間が掛かってしまいました。申し訳ございません」
国王・「それは仕方のない事だよジーク。大丈夫、君の仕事と兵士達の面倒は、エルが見てくれているよ」
ジ・「エルが?」
国王・「色々気になるだろうけど、とりあえず君に知らせておかなければならない事があるんだ。君が眠っていたこの一週間の事。君の体についてもね」
ジ・「?」

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国王の口からこの一週間の出来事を聞いたジーク。彼自身の体の事、転生を行う事と、その為にエマル自ら危険な場所へと旅立った事。ジークは以前から女王誕生前の流転国が最も危険な次期だという事を知っていた。力無い表情に徐々に驚きと怒りの感情が現れる。
ジ・「バカな、女王が生まれる前の流転国がどれほど危険な場所のか、自分の国なら分からないはずはない! 影達の恰好の的になるんだぞ!!」
今回ばかりは、エマルの行動に素直に喜ぶ事は出来ない。たとえ自分の為だったとしても。
国王・「それが分かっていて、それでも君を助けたかった。あの子はそういう子だよ? ジーク」
ジ・「くっ! アイツはこの先、自分が国にとってどれだけ重要な存在になるのか、全く理解出来ていない! ――――国王様、今すぐ彼女を呼び戻してください!」
国王・「もう遅いよ。彼女が流転に出発してからもう【三日】は経っているんだ。時空回路を使って瞬時に他国に飛べるから、もう等に着いているはず。連れ戻す意味はもうない」
ジ・「なら俺を自由に! 何かあってからでは―――――――っ!?」
国王・「……」
自分を見据える国王の鋭い視線に気づき、彼は言葉を呑んだ。
国王・「その体じゃまともに戦う事なんて出来ない。冷静になりなさいジーク」
ジ・「っ―――――――――くっ!!」
自分の痩せた体を見て【ちくしょう!】という表情で歯を食いしばった。普段冷静沈着なジークがこんなに取りみだした姿を見せるのは珍しい事だ。その気持ちは分からない訳ではない。
国王・「大丈夫。彼女には頼れる護衛を付けたんだ。君が成すべき事は彼等の無事を信じて待つ事だよ」
ジ・(……)
悲痛の表情だったジークは、ため込んでいた怒りを吐き出すように大きく息を吐いた。そして顔を上げたその表情はいつもの冷静さを取り戻している。
ジ・「国王……護衛とは誰の事ですか?」
国王・「それはね、フフッ」
ジ・「?」

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時はさかのぼり、エマルの一時帰国当日。ジークを抜いた三人の守護士達はエマルが謁見の間に来るより少し前に召集が掛けられた。
守護士が集まると、すでに国王は王座へ、そしてその横にはこの国の大臣がたたずんでいた。見た目はクルリとまるまった髭にオールバック。知的なメガネをかけた小太りで貴族風おじ様。普段は自由気ままな国王の性格の為、常に横に着いているという事はないが今回ばかりは国家レベルの問題として上役の連中も出てきた訳だ。今は国王と何かを話している。
デ・「ふあ〜〜っ! ―――――――眠ぃ」
これから戦場に旅立つというのに緊張感の欠片も無いデルタ。大きく遠慮無しに欠伸をした。横でエルが顔をしかめる。
エ・「ちょいと、国王の前で欠伸すんじゃないよデルタ!」
デ・「んあぁ、わりぃ。俺朝って弱いんだ」
と、彼はショボショボした目をこする。
エ・「まったく―――――今回はレ二―も寝むそうだねぇ、大丈夫かい?」
レ・「余計な心配です。たとえ眠くとも、あの様な品の無い顔を晒す気はありません」
と、デルタをチラ見するレ二―。
デ・「むっ!」
再び欠伸が出そうになったデルタはその言葉で強引に欠伸を引っ込めた。一晩中ジークの体作りに勤しんでいたレ二―。一見平気そうに見えるが、力を使ったせいか、それとも徹夜の疲れか、その表情は少し疲れている。
国王・「やぁ、予定より早い時間に集まってもらってごめんね」
国王はいつも通りの幼い姿で王座に座りなおした。
国王・「出発前にもう一度全員に今の状況を説明しておこうと思って集まってもらったんだ。さてレ二―、体の準備は整ったかい?」
その問いにレ二―が一歩前に出た。
レ・「は、右目を除き、顔と肉体、筋肉のバランス等、全て捕獲した時のジークさんその物に仕上がりました。あとは本人の魂を移すのみでございます」
国王・「うん、結構。――さてデルタ、昨日は増援部隊の指揮ご苦労だったね。今の状況を知っているかい?」
デ・「は、おおよその事は耳に――」
国王・「うん、なら話は早い。―――放っておけば近いうち必ずジークは完璧な鬼となる。全世界の生き物を死に至らしめるまで彼は止まらない。だからジークの体内に住み着いているこの鬼とジーク本人を引き離す必要があるんだ。方法は一つ、転生術でジークを新たな体へ移し替える事だけ」
真面目な国王の説明にその場の全員が黙って頷く。
国王・「だが知っての通り、儀式を行うには転生を司る国、流転国の許しがどうしても必要なんだ。今回の第一目的はその流転国から転生許可を得る事……」
三人・「はっ!」
国王・「そしてもう一つ問題なのが、現時点の流転国の状況下にある」
レ・「話によれば、女王誕生時期により死者の黒き魂【影】が流転に集中しているとか」
国王・「そう、流転は現在影達の討伐中で危険区域。女王の力は強力だから影達も手は出せないけど、次期女王となるエマルはまだ力が無く恰好の的。真っ先に狙われるのは明らかだからね」
エ・「廻りくどいねぇ国王様。初めはエマルをエスコートしろとかなんとか言って、実はあの子を護衛する事が目的だったなんて。すっかり騙されちまったよ」
国王・「あはは、バレちゃってたかな?」
「まいったなぁ〜」と、国王は可愛く笑った。
国王・「流転の女王とは古き頃からの縁でね。――――ねぇ、デルタ?」
デ・「は?」
国王・「もし困ってる女の子がいたら、君ならどうする?」
デ・「は、それはもちろん……男としては放っておけないでしょう!!」
国王・「そう言う事♪」
二人はビシッと親指を互いに向けた。何ともノリの良い国王だ(汗
エ・(似たもの同士……)
国王・「まぁそう言う事だから、君達にはエマルの護衛として同行してもらいたい」
デ・「任せてください。彼女は俺が無事に流転の城へ連れて行きますよ!」
エ・(女絡みだとホント……)
レ・(実に頼もしい。――こんな時だけはですがね)
レ二―とエルは呆れてため息をつく。
デ・「―――あん?」
と、この時デルタは国王の言った事に一つの疑問が浮かんだ。
デ・「そう言えば国王様、先ほど【君達】って仰いましたけど?」
国王・「うん、言ったよ?」
レ・「?」
エ・「?」
デ・「―――え?」
国王・「いや、だからね?」

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デ・「認めねぇ! 絶対に俺は認めねぇぞこの任務!!」
先ほどまでやる気満々だったデルタ。何故か今は任務の内容が気に入らないらしい。国王の御前だという事を忘れてわめき散らす。
エ・「アンタねぇ、今回の任務を何だと思っていたのさ? エマルとデートって訳じゃ――」
デ・「わぁってる!! 分かってるけどこれはあんまりじゃないですか国王様!?」
国王・「あはははっ、まいったなぁ……」
膝をつきそうな程のデルタのへこみっぷりに苦笑する国王。
レ・「国王様のお決めになった事です。不本意ではありますが、従うしかないでしょう?」
デ・「嫌だ! お前に言われるとなおの事、い、や、だ!!」
レ・「―――子供ですか、あなたは」
デ・「うっせぇ!! よりにもよってお前と【二人で護衛】だなんてっ、俺は、俺はぁ〜〜……」
ずっとエマルとの二人きりの任務かと思っていたデルタには何とも辛い現実?
国王・「先ほど大臣達とも話し合った結果、今回は場所の状況が状況だし、守る人も人だから。レ二―の様な援護型がいた方が確実に守れるでしょう?」
デ・「だからって、よりにもよってコイツッ、コイツゥ〜〜〜〜〜!!」
一緒の任務と決まった途端、見るのも嫌なのか顔を押さえてレ二―を指さす。
レ・「これが同じ守護士ですか? 見るに堪えない」
国王・「この任務絶対に失敗出来ないんだ。今回は我慢して欲しい、デルタ」
デ・「うっ!?―――ぐっ、国王様にそんなマジで言われちゃぁ―――――りょ、了解、しました」
口から無理やり絞り出した様な応え。まあ、無類の女性好きなデルタの性格から、彼にとってのYESがどれほど辛い答えなのか、その場のみんなが察した(汗
レ・「偉いですよ、デルタ」
デ・「やかましい! お前にだけは言われたかねぇ!」
国王・「―――では、交渉はエマルに任せて君達二人は彼女の護衛に全力を注いで欲しい。以上!」
レ・「は」
デ・「は」
二人が同時に頭を下げる。
国王・(……)

―――何事も無く、帰ってきてほしい。

国王は隠していたが、本当はこの問題、他の重役達(官房長、国王補佐、その他)の間でかなり揉められていた。
――【彼には悪いが、そんな事をせずともジーク氏の時を止めてしまえば即座に解決する事だろう。そんな事をしては流転との間に溝が出来るかもしれない】
――【彼の力は今後も国の為に必要だ】
と、それぞれ意見が割れてしまった。確かに、彼等流転の者達に転生許可など……ヘタをすればクロクラムと流転の間に大きくヒビが入ってしまうかもしれない。一部はそれを恐れている。国王としても余計な波風は立たせたくはないが、今まで国の為に尽くしてくれた者をそう簡単には切り離せない。それにエマルが付いているなら彼女に掛けたい。――この決断がどういう結果を招くか、国王自身もそれなりの覚悟が必要だった。
国王・「……ふぅ」
国王はみんなにバレない様、深いため息をついた。―――と、その時一人の兵士が
兵・「国王様、エマル様がおいでになられました」
国王・「来たか―――――扉を開き、彼女をここへ!」
兵・「はっ!」
全員が扉の方を向き、大扉が重い音をたてゆっくりと開かれる中――
デ・「なぁ、エル」
視線は開かれる扉のまま、デルタがエルに向かって呟いた。
エ・「何さ?」
デ・「俺達がいない間、お前は旦那の部下達の面倒を見てやってくれよ」
エ・「?」
体は扉の方へ、エルの目だけがデルタに向けられる。
デ・「俺等が留守の間、旦那の変わりはお前しか出来ねぇからな。――旦那が復活した時、アイツ等の腕が訛ってたら旦那の雷が落ちそうだろ?」
エ・「……」
エルは目を細め、しばらくデルタを見た後ため息をついた。
エ・「まさか、昨日の姿を見られてたなんて――――情けないったらないねぇ」
デ・「あ? 何の事だよ?」 
肩をすくめてぼけるデルタ。
エ・「ふん――分かった、面倒見といてやるよ」
仕方ない、と苦笑するエル。その返事にデルタはニッと笑うと……
デ・「あ、出来れば俺の兵士達も―――」
エ・「却下」

・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・

国王・「その後のデルタときたら、広間に入って来た彼女と目があった瞬間に凄い勢いで駆け寄ってってさ、いきなり彼女の手を取るからエマルも引いちゃって! エルに背後から蹴り飛ばされてたよ」
ジ・「ハハッ、あいつ等らしい」
国王・「……」
自分の話を苦笑しながら聞いていたジークを見て、彼が完全に落ち着きを取り戻したと思った国王は――
国王・「今なら、もう追いかけようなんて思わないだろう。その鎖だけでも解いてあげるよ。それに何か食べた方がいい」
ジ・「……」
鎖を消そうと手をかざした国王だったが、何を考えたのかジークは―――
ジ・「国王、お願があるのです」
国王・「?」

・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・

国王・「じゃあ、また様子を見に来るよ。―――本当に良いんだね?」
ジ・「無理を言って、申し訳ありません」
国王・「僕が限界だと判断した場合、無理にでも従ってもらうよ。―――いいね?」
ジ・「は……」
国王・「じゃあ、ね」
牢獄の扉をくぐり、ゆっくり扉を閉める国王の後ろ姿をジークは黙って見送った。
ジ・「……」 
再び一人となったジーク。
―――――――これでいい。
エマルやデルタ、レ二―が俺の為に体を張っているなら、彼等の誠意に応える為に俺はなんとしても儀式を受けなければならない。――それまでに俺がしておける事は、あいつらを信じ、儀式までに少しでもこの体を弱らせておく事。俺が抜けた後、鬼だけとなった体を封印するにも多少の時間が必要のはず。鬼の放出を出来る限り防がなければならない。
ジークはその為に、彼等が戻ってくるまであえて自分を苦しめ、弱らせる方法をとったのだ。――――今まで通り、【拘束続行・絶食】と言う形で……
ジ・(耐えてみせるさ、お前達が帰って来るまで。――だから頼む。必ず全員無事に帰ってきてくれ……)

――デルタ。レ二―。彼女を守ってやってくれ……

〜つづく〜

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