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傑作Choice! No.2130 『 空白図書館 』Artworks by. そとさん

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(鳥……?)
かすかな羽ばたきの音に顔を上げる。
確かに目端で動くものを捕らえたが、目をこらしても何もない。

階層を下るたび深くなる闇。息苦しさを覚え天を振り仰げば、こぽこぽと音を立て細やかな光が緩やかに上る。

闇を払おうと取り出した角灯は灯らない。見れば火種を持つ手が震えていた。怖い。本当はとても。何故人々は、祖父は、消えてしまったのか。今でも誰にもわからない。

壁を背に座り込む。体が重い。目を閉じた先で、薄く白い幻が揺らぐ。祖父と祖母と共に過ごした穏やかな日々、まどろみの中で見た光と舞う埃の舞踏、友人達と駆け回る雪の街、焼きたてのパンの香り、祖父の語る異国の不思議な物語。……ざわめき、静寂、文字の滲む古い書きかけの手紙、快活だった祖母が忍び泣く声を聞いた夜。

遠く滴の落ちる音。
円形の波紋のかたちが瞼の裏に広がり、消えた。

どれほどの間眠っていたのだろう。倒れ込んでいた地面は冷たく、体は冷え切っていたが、気持ちは少し楽になっていた。岩の隙間から穏やかな白い光が差し込んでいる。朝、なのかもしれない。吹き抜けた風の中、かすかに古い紙の香りが混じる。懐かしい昔の家と同じ香り。誘われるように歩き出す。

不意に壁が途切れ、視界が、開けた。

巨大な縦穴が吹き抜ける崖。
その対岸には壁一面の書棚が広がっていた。

―――空白図書館。

たどり着いていたことに驚き、励まされ少し笑んだ。

戻ることはできないのかもしれない。先を思えば足がすくむ。けれど知りたかった。消えた理由を。真実を。手紙の続きを。そしてただ、もう一度、会いたかった。

荷物を抱え上げ振り返る。
再び歩み出した後、二度と振り返らなかった。

―――泉があるのだという。
深い森、切り立つ崖に隠れ峙つ古い石の塔。空白図書館と呼ばれるその最下の層に。
満ちる闇は文字の雨。時に圧搾された蔵書の言詞(げんし)は雫となり、混ざり合い、新たな物語を作り出す。始まりも終わりもなく語られ続ける混沌の泉。傍ら、混ざり合うこともなく佇む一段と深い闇は、残された者の悲しみをまとい、その重さで地に飲み込まれた末期の吐息。伝えることのできなかった人の記憶なのだという。

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こんにちは。メイン板にはとても久しぶりに失礼します。描けば描くほど描くことが苦手になる悪循環で、この絵もArt.netさんがなかったらきっと投げ出していました。長い間スペースをお貸し下さり、本当にありがとうございました!
集中して描けるようになりたいです。(屮゚Д゚)屮

Artworks by. そとさん (2013/04/28(Sun)16:23:36)

推薦コメント:素晴らしい世界観です。

推薦日:2013/04/28

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